「ロボットを用いた科学教育プログラムの開発」
私は大学二年までに受けてきた、「試験のために学ぶ」という受身の教育に違和感を覚えていました。 これに対して「作るために学ぶ」というモノづくりをすることで、受動的な知識が能動的な知識になることを体感しました。 そして現在、「能動的なモノづくりの過程は、教育になるのでは?」と思い、教育プログラムを開発しています。 今回の学会では、モノづくりの過程を通して学んだことから教育プログラムを開発するまでの過程、さらにそこで考えたことについてを発表しました。
日本物理学会第62回年次大会 (2007.9/21-24 北海道大学)
【発表者】八重樫 和之(東北大学工学部2年)
「何か作りたい」
そんな気持ちから行ったモノづくりを通して、私は様々なことを学びました。
さらに、「これは教育にあったらいいのでは?」
そう思い科学教育プログラム開発しました。
本学会では、モノづくりで学んだこと、さらにそこから作った教育プログラムについて発表しました。
はじめに~大学生の理科離れと自分への影響~
大学生って理科離れしているのか調べてみた スライド②~③
理科離れの子どもが増えている。これはよく聞く話です。しかし、理科離れの大学生が増えてる、そんなニュースはほとんど聞きません。
大学生になったら理科離れは治ってるか調べてみました。
平成16年の内閣府の世論調査を見みても他の世代に比べ18~19、20~29歳の世代が理科に対しての興味が乏しいことがわかります。
したがって、大学生も理科離れの影響を受けてます。
これも理科離れ?作りたいけど講義が活かせない スライド④~⑤
大学生はどんな理科離れがるのでしょうか。
私の場合は「学問を応用して何かを作りたい」そう思い工学部に入りました。
しかし、一年半も講義を受けたにもかかわらず応用の方法がみえてきませんでした。
右図は大学二年の私が自ら被験者となり今まで受けた試験を解きなおしたものです。
縦軸がテストの点数、横軸が科目名、水色が講義終了直後の点数、青が現在の点数をしめしています。
見てわかるとおり、力学と熱力学はそれほど結果がわるくはなりませんでした。
力学の質点の運動なら、「消しゴムを投げてみよう」とか熱力学なら「熱と温度はどうちがうんだ?」と日常生活と何かつながりが見えるので、それを知ろうという姿勢があり、このような結果になりました。
一方量子力学は「井戸型ポテンシャルって??」という疑問のみ。
電磁気は「電気はいっぱい使ってるけど、製品の仕組みとどう関係してるか見当もつかない。。。」
このような感想を持っている量子力学と電磁気学はひどい下がり方でした。
いずれにせよ、ここまで講義内容を忘れてしまっていたことがショックでした。
作ってみよう~やってみようさん奮闘記~
身近な製品を高校知識で再現しよう スライド⑥~⑦
じゃあ、実際に作ってみたらどうだろうか?
そう考え、今まで学んだことを使って試しに何か作ることにしました。
題材は身近にあるけど仕組みがよくわからない製品。
今回は携帯電話の着信メロディを再生する装置を作ろうとしました。
実際に右上図のような電子部品をつかって電子回路をつくることにしました。
コンデンサやPICマイコン、トランジスタなど一つ一つは高校の物理で扱う程度の単純そうな部品です。
「東北大工学部に受かった俺なら簡単に作れるはず」そうタカをくくってましたが、現実はそれほどあまくはありませんでした。
予想外の苦戦、必死のトラブルシューティング スライド⑧~⑨
電子工作を開始してすぐの頃は
「なぜ失敗したのかわからない」
という失敗の連続でした。
例えば、音がなる回路が前日までは音が鳴っていたのに、次に日に鳴らなくなってしまいました。
どこがおかしいのか、両手にテスターを持って、一つ一つの回路を確かめていきました。
でも結局どこもおかしくありませんでした。
実は、、、、電池の残量がなかった、というのが原因でした。。
これは正直ショックでした。「こんなことで一日無駄にしてしまった」
なぜこんなことがおきたのかというと、「ここまでわかる、ここからわからない」という切り分けができてなかったことです。
それが知識のつながりが曖昧ということです。
悔しくて悔しくて、「こうなったら絶対最後まで作ってやる!!」と普段の勉強の数十倍のモチベーションで電子工作をしました。
悔しく仕方なかったので一つ一つの部品をありとあらゆる手段で調べました。
トランジスタの三本足はgoogleで検索したり、実際に回路につなげてテスター測ったり「トランジスタ回路演習」という難しそうな参考書を開いたりとにかく調べ、わかったら次の部品へと調査していきました。
結果、受動的な知識を能動的な知識に変換しました。
悪戦苦闘の末の完成、これは教育にもなるのでは?
念願の完成とその成果 スライド⑩~⑪
こうして一つ一つの部品に矢印のような応用法が見えました。
コンデンサはPICマイコンの電源安定化に使う。
PICマイコンで電圧をパルス化パルス波をスピーカに繋げば電子音を鳴らせることができた。
さらにリモコンの仕組みを再現しようとしたときもゼロから作るのでなく、パルス波で赤外線LEDを38kHzで変調することで再現できます。
ここで得られる理解は普段の勉強の数倍は深いものです。
こうして開発した携帯電話の着メロ再生ですが、得られたのは電子工作の知識だけではありません。
モノづくりをするという過程で一見関係性が見えなかった電磁気と波動の知識がつながりました。
さらに日常の製品とリンクをかけることができました。
モノづくりを高校時代の勉強と比べ、講座へまとめてみた スライド⑫~⑬
モノづくりの過程は教育としても十分生かせると思い現状の教育プロセスと比較しました。
私も2年前は左の高校の枠組みで、一見能動的に勉強していたようで実は試験をパスして東北大学に入るためという受身の学習をしていました。
これに対して私が一年間で行ったモノづくりは今持っている知識で作ろうします。
しかし、必ず失敗して、その原因を解明する過程でさらに持っている知識を強化していきます。
こうして今まで学んだこと見つめ直し、徐々に成功へと向かいます。結果知識がつながり、応用できます。
右図は開発した着メロ装置を講座としてまとめたものです。
講座命は音の仕組みを理解して銃夕に音を鳴らそう。
対象は小学校高学年、中学生、時間は二時間×二回を予定してます。
講義の流れは
第一回が「音の仕組みを知る」
第二回が「メロディを作る」です
一回目はまずデジタル回路で音を出します。
よくファミコンが壊れたときのような「ブーッ」という音です。
そして次は周波数を調整して音階、つまりドレミファソラシドを作ります。
二回目の講座は、まずは単音でメロディを作ります。
しかしベタに3、4行で一つの音を出していたらとても曲の再生はできません。
曲にするにはそれを関数にして構造化、アルゴリズムかする必要があります。
さらにそれができるようになったら配列を用いて複数のスピーカーに同時に違う命令を出し、結果和音を奏でます。
今後の方針~ロボットを用いた科学教育プログラム~
ロボットの開発とその講座化 スライド⑭~⑮
今後の方針ですが
今回のように一つ一つ日常にある製品を組み立てていけば、結果二足歩行のロボットも作ることができるはずです。
例えば赤外線を利用して障害物をよければそれがロボの目になります。
電子音で歌えるロボット、トランジスタで作ったセンサ回路で主なハードウェア部分を作りさらに二足歩行を目指します。
さらに、それら一つ一つを講座として形にしていきます。
これがロボットを用いた科学教育プログラムです