多細胞生物における複合刺激に対する応答~ボルボックスの 走行性と送電性~
2008年 7月13日(日)、東北大学片平キャンパスさくらホールで行われたサイエンスカフェで、 「多細胞生物における複合刺激に対する応答~ボルボックスの走光性と走電性~」 というテーマで発表しました。
はじめに
自然の環境の中にはさまざまな刺激があります。
生物は、環境中からの刺激がないとき、自発的にあらゆる方向に動きまわっています。生物は環境からの受けた刺激に対して、応答して行動しています。
刺激に対して取れる行動の選択肢いくつかあり、生物はそれらの中から選択し、行動しています。
研究の目的
複数の刺激を同時に受けたとき、生物はどのような判断をして行動しているのだろうか。
生物の中ではどのような情報処理があるのだろうかというのを探ることを目的としています。
ボルボックスについて
生物と一口にいっても、単細胞生物から私たち人間のように複雑な多細胞生物まで様々のものがいます。
本研究では、多細胞生物の中でも比較的構造が単純とされるボルボックスを用いました。ボルボックスとは藻の仲間で、きれいな池や湖に住んでいます。
葉緑体を持っていて、光合成をして生きるが、体の表面にたくさんの繊毛が生えており、水中を自由に泳ぐことができます。
また、光に集まる性質と、マイナス電極に集まる性質も持っています。光に集まる性質を正の走光性と呼び、マイナス極に集まる性質を不の走電性と呼びます。
これらの性質を利用して、本研究では2つの刺激を光と電場にしました。
生物が2つの刺激に対してとれる行動には
・光刺激に対して行動を起こす
・電気刺激に対して行動を起こす
・光刺激と電気刺激を複合したものに対して行動を起こす
・全く関係のない行動をする
という4つの選択肢があり、刺激に対して判断をする必要が生じます。2つ刺激が与えられたとき、生物はそれをどのように判断し、行動しているのかが興味深い点と言えます。
2つの刺激が与えられているとき、生物はどのような行動をするのかを観察し、その行動を通して生物の判断について論じたいと思います。
実験手法
3cm×3cmのアクリルのシャーレに3mlのボルボックスの入った溶液をいれて、
両端の溝にアルミ板を差込み、電場をかけます。
電場と直交する方向からLEDで光を当てます。
ボルボックスの軌跡を表示させるプログラムを使って、どのような反応を示すのかを解析しました。
結果と考察
一般に、ボルボックスは自転をしつつらせんを描きながら動くと言われていますが、ボルボックスの運動を注意深く観察するとこの図に示すように大きく2つのタイプがあることがわかりました。
刺激を与えてない状態では、自転軸と進行方向が一致しているボルボックスが多かったので、こちらを自然な状態のボルボックスと定義しました。
ボルボックスが進む方向をの分布をはかったところこのようになりました。
刺激を与えないときのボルボックスは360度あらゆる方向に動きます。
90度の方向から光を当てて、左から右の方向に電場をかけました。黒、赤、緑の順に電場の強度が高くなっています。
電場が弱いときは、正の走光性を示す固体が多く、電場の強度を上げるにしたがって、正の走光性と、負の走電性の方向を足し合わせた方向に進んだ個体が多くなっっています。
不自然な運動をするボルボックスの割合をそれぞれの実験条件ごとに調べたところこのようなグラフになりました。
x軸は電場の強度で、0V、2V、4V、6V、8V です。
y軸は発光ダイオードにかけた電圧で、光の強度をあらわしています。
z軸が不自然な運動をするボルボックスの割合を表しています。
まず基準になる状態を考えます。
光と電気のどちらの刺激も与えていない状態における不自然な運動をする個体の分布をはかったところ、その割合は14%と、最も低い割合となりました。
単一刺激の場合、光の強度を大きくしていくと、不自然な運動をする個体の割合が増加しました。電場の強度を大きくしたときにも、不自然な運動をする個体の割合が増加しました。 光と電気の複合刺激の場合、光の強度、電場の強度が強まるほど、不自然な運動をする個体の割合が増加しました。
結果
1.複合刺激の場合、どちらか一方の刺激を選択し、応答するのではなく、両方 の刺激に対して、走性の方向性を合成する応答をしました。
2.光と電場の刺激の強度が大きくなるにしたがって、走光性と走電性の方向性を 合成できない個体が増えました。
3.光と電場の刺激が大きくなると、2つの走性の方向性を合成できない個体が増 えた一方で、走性の方向性を合成できる個体は指向性高くある特定の方向に移 動しました。
4.1の個体を情報を統合できる個体と呼び、
2の個体を情報を統合できない個体とよぶならば、
環境から受ける刺激が強くなるにしたがって、
情報を統合できない個体がふえる一方、
情報を統合できる個体はその情報統合の精度を増したと言えます。