第1回 natural science シンポジウム(2008.07.13)
基調講演「生きものは円柱形」本川達雄さん(東京工業大教授)
ベストセラー「ゾウの時間 ネズミの時間」著者として知られる本川達雄・東京工業大教授(仙台市出身)が、「生きものは円柱形」をテーマに基調講演。科学とは自然の見方、つまり世界観を与えるものだという考えのもとに、生物学的世界観を分かりやすく説いた。
「いい加減」と「厳密」から見える世界とは
蛇は円柱形、木は円柱形、私は円柱形・・・。私は円柱形である、これは随分「いい加減」な言い方ですよ。けれどもそう言えば、私と木と蛇が皆同じようなものとして理解できるのです。実は科学というのは、世の中を上手い具合に「いい加減」に丸めていくからこそ、はじめて共通性が見えてくるのです。厳密なものだと、現実に全然合わなくなるのです。
ではなぜ、「生きものは円柱形である」と「いい加減」に考えるのでしょうか。それは、自然界には意味というものがあるからです。
動物や木の幹は円柱形だけど、手の平や葉っぱは平べったい。さて、どうして平たいの?考えてみよう。
平たい形は意味があると話し、持ち歌の「ひらたいてのひら」をアカペラで披露
同じ体積なら、広い面積がある方が、光をたくさん集めることができます。手のひらが平たいのは、物をつかむためだし、耳が平たいのは、たくさんの音を集めるため。鳥の羽は、たくさんの空気を押すため。ですから、平たい形には意味があるのです。
でもね、平たい形には問題点もあるんです。広い面積でたくさんの物を集めることはできるけど、ヒラヒラするから、全然体を支えられないんです。だから体を大きくしようとしても、立てない。ところが、これをクルッと丸めて丸くすると...立てちゃうんです。つまり、丸い形はすごく強い形なんです。
地球の上では、風もあるし重力もあるから、体が強くて体が支えられていなきゃ、やっていけないんですね。だから、強い丸い形はとても重要なんです。葉っぱもよく見てみると、葉脈が走っている。あれ実は、円柱形なんですね。つまり、ヒラヒラだったら平たい形が保てないから、中に円柱形で補強しているのです。蝶々やトンボの羽もそうですね。
生物の形には、共通性があります。そして、意味があるということがわかってきます。
円柱形は強い形。「生きものは円柱形」を一緒に元気良く歌う場面も見られた
ある共通性を見つけ出して、結び付けていくのが科学です。歌の詩や芸術も同じですね。世の中を何らかの形で関連付けながら編みこんでひとつの世界をつくっていこうとする知的な努力、それが科学が科学たる所以です。
わたしたちは「いい加減」な過程を経て、その上ですっきりしているのです。それですっきりとしても、けっこういろんなことができるんですよ。人工衛星も上げれちゃいますし、「いい加減」にやって。科学って、そういうものなんです。
「いい加減」さと「厳密」さを上手い具合にバランスをとれた人間になって、はじめて良い理科系になれるのでしょう。
そのあたりの科学の面白さが、今まで全然伝わってないのです。というより、そういうことを言う人が、これまでいなかったのね。これからはそういうことを科学で伝えると、科学はもっとおもしろくなるのではないか、と思います。