第1回 natural science シンポジウム(2008.07.13)
研究プロセス体験型サイエンスライブ「五感ってそもそも何だろう?」
「科学者になるには『あたま』がよくなくてはいけない」これは普通世人の口にする一つの命題である。これはある意味ではほんとうだと思われる。しかし、一方でまた「科学者はあたまが悪くなくてはいけない」という命題も、ある意味ではやはりほんとうである―
物理学者で随筆家・俳人の寺田寅彦は、随筆「科学者とあたま」で、科学者に必要な素養をそう表現した。科学者になるには、観察と分析と推理の正確周到を必要とする「あたま」の良さが、もちろん必要である。しかしながら、科学者としてよりいっそう重要必須なのは、普通の人が容易にわかったと思われるような出来事の中に、何かしら不可解な疑問を認め、明瞭でなかった道理や意義を明らかにすることに苦心する「あたま」の悪さであるという。
サイエンスコミュニケーションの必要性が叫ばれる中、科学イベントの多くは、科学の成果を市民向けに「わかりやすく」説くものは多いが、その結果に至るまでのプロセス、すなわち科学者の「あたま」の臨場感が伝わるものは少ない。そこで我々「natural science」では、科学者の「あたま」、すなわち科学のプロセスを体感できる科学イベント「研究プロセス体験型サイエンスライブ」を毎年開催している。
「natural science」の科学者らが、ふとした疑問をかたちにしていくプロセスを、ライブ形式で体験できる斬新なスタイルで、気軽に科学的なものの見方・視点に触れることができるもの。昨年は「どうして魚はまっすぐに進むのだろう?」、今年は「どうして耳はふたつあるのだろう?」と、研究テーマは一見、常識的にわかりきったように思われる素朴なもの。しかしその疑問に意味を見出し、試行錯誤を繰り返しながら明瞭でなかった道理や意義を明らかにしていく科学者の研究プロセスを、参加者らと一緒に実験を進めながら、科学者らが臨場感たっぷりに演じる。現在進行中の研究をテーマに取り扱うが、科学の知識は前提としない。音を「見る」実験や「機会の耳」実験などを体験しながら、音の原理と人間の認識の仕組みも併せて紹介。必要となる概念については、「natural science」の科学者らが寸劇で披露。今は亡き過去の科学者が、何を思い、どのように試行錯誤したのか。それを、現代の科学者が想像し、自分の視点で、自分の言葉で語る。つまり、科学者にとって必要な素養である「あたま」の良さと「あたま」の悪さ、
その両方を疑似体験できる「サイエンスライブ」というわけだ。
参加者からは、「科学者は何でも知っていて遠い存在だと思っていたが、意外と素朴な疑問から研究をはじめることに驚いた」、「研究のプロセスはすべてが自明ではなく、試行錯誤の結果、因果関係が明らかになることがわかった」などの感想があった。
音を「見る」実験を体験する参加者達。空気の振動を定量的に可視化するために、アクリル管を用いて、管の中の振動を見る。
音を「見る」実験で見られたコルクパウダーの振動。管の中に送り込む音の周波数を上げていくと、ある周波数のところでコルクパウダーが振動しはじめた。
「人はどうやって、音源の位置を認識しているのか?」参加者が被験者となり、音像を方向感覚を伴って認識できる限界を調べた。