【口頭発表】産学官による地域連携型科学イベント「学都仙台・宮城サイエンスデイ」の試み(日本物理学会2009秋)
2009年9月25日から28日まで熊本大学にて開催された、日本物理学会2009年秋季大会領域13にて、「産学官による地域連携型科学イベント『学都仙台・宮城サイエンスデイ』の試み」と題して、口頭発表を行いました。本講演では、「学都仙台・宮城サイエンスデイ」の実践を通して、「科学コミュニケーション」に関して感じたことを、提案としてまとめました。
産学官による地域連携型科学イベント「学都仙台・宮城サイエンスデイ」の試みについて、NPO法人 natural science の大草芳江が発表させていただきます。よろしくお願いいたします。
私が理事を務める特定非営利活動法人natural scienceは、「科学で地域づくり」を目指す、組織の枠を超えた若手研究者・学生主体のNPO 法人です。私は研究者でも学生でもない立場から、企画・運営・広報役として2006 年に活動を開始した当初から携わっています。natural scienceの日々の活動は日々の研究・教育活動が中心ですが、年に一度、産学官による地域連携型の科学イベントを主催しています。本講演では、私が今年度、主に取り組んだ『学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ2009』を通じて、科学コミュニケーションについて感じたことをお話したいと思います。
まず、学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ2009開催の社会的背景についてお話します。
一般的に「科学」と言うと、「既に出来上がった体系であり、客観的で完ぺきなもの」というイメージが強いように思います。何を隠そう、私自身も高校生のころまで、無意識のうちに、そう信じ切って勉強をしていました。しかし当然のことながら、まずはじめに人の思いがあり、それらを試行錯誤して形にしていくプロセスがあって、今のわたしたちの社会があるわけです。
社会の成熟化に伴い、科学や技術は複雑化・専門細分化してブラックボックス化し、私たちは便利さと引き換えに、科学や技術のプロセスを五感で感じる機会を失ってきました。しかしながら科学や技術のもたらす結果を一方的に享受するだけでは、科学離れ問題や科学リテラシー不足などの社会的リスクを回避することはできません。
ならば、科学や技術のプロセスを五感で感じることができる場を、この地域につくることはできないでしょうか。私たちの地域をよくよく見てみると、仙台・宮城は、企業や大学・研究機関などが密集する、本来ならば科学が身近にある地域です。ならば、科学に関係する要素を同じ時間・同じ空間の一点に集めることによって、科学を切り口に、わたしたちの地域を実感できる場をつくることはできないでしょうか。
そこで『学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ2009』では、結果だけでなくプロセスを五感で体験できる場づくり、それを通して、科学を切り口に地域社会を可視化する場づくりを目指しました。
以上のようなコンセプトを踏まえ、出展条件を2つ、つくりました。まずは「結果だけでなくプロセスを五感で体験できる展示物」があること、次に、プロセスを五感で体験した後、もっと深く知りたくなったときに応えられるよう「開発や研究等を行った本人による双方的対話」があることです。これらによって、目に見えやすい成果や製品等の結果ばかりでなく、研究や開発等の裏側を、その原動力となる人の思いを通して体感できる場づくりを目指しました。
以上2点を出展条件として各団体へ提案したところ、50 の企業、大学・研究機関、行政機関が出展、69 の多種多様な体験プログラムが集まりました。
こちらは、 『学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ2009』のチラシ裏面です。多種多様なプログラムが実施されました。
「結果だけでないプロセス」をどのようにとらえるかは、各人各様です。今回、出展者とのやりとりで特に気をつけたのは、 「プロセス」の解釈にゆるやかさをもたせたことです。啓蒙活動を前提とするのではなく、出展者本人が「おもしろい」と思うもの、力を入れているところを形にしていただくことが、人の思いや試行錯誤のプロセスを体現することにつながるのではないかと考えたためです。その結果、多種多様な「プロセス」が集まりました。
『学都「仙台・宮城」サイエンス・デイ2009』の結果です。幼児から専門家まで、幅広い層の参加がありました。層は幅広いですが、それぞれにとって「科学に対する新しい発見があった」イベントとなりました。
イベント終了後、出展者とのやりとりから、感じたことがあります。研究者や技術者から「個人的にも楽しかった」という声を聞きました。日頃から研究や開発に一生懸命携わっているほど、研究や開発のプロセスを他人と共有できることを、喜びとして感じているようでした。
以上のことから、科学コミュニケーションについて感じたことを、これから述べたいと思います。
昨今、科学コミュニケーションの重要性が叫ばれ、さまざまな組織によって様々な取り組みが実践されています。しかしながら依然として、研究者等と一般市民の間には「どうせ理解されない」「どうせ理解できない」というある種の壁があり、双方にとって精神的な負担になっていると肌身で感じています。
そこで、コミュニケーションの前提として、そもそも感じることは各人各様であることに立ち返りたいと思います。そのためには、コミュニケーションにあえて方向性を持たせず、それぞれの人が感じたいように感じられ、深めたいだけ深められるような"ゆるやかさ" をつくる工夫が重要だと考えます。
コミュニケーションに"ゆるやかさ"をつくる工夫として、 実践して手応えのあったアプローチを、提案として最後にまとめます。
まずひとつ目は、「結果だけでなくプロセスを五感で体験」というアプローチです。この「プロセス」のどこに興味を持つかは、各人各様です。出展者側も来場者側も、子どもも専門家も、それぞれの視点から各人各様に楽しめる場づくりが、"ゆるやかさ"をつくる工夫として有効ではないかと考えます。
ふたつ目は、「地域」というアプローチです。「地域」をキーワードとすることで、分野を絞ることなく、多様な出展者に参加を呼びかけることができます。その結果、多種多様なプログラムが集結するため、より多様な興味を持つ人々が参加することができると考えます。
来年は、単に要素を増やすだけでなく、「テーマ」という切り口を加えることで、コンセプトを拡散させることなく、科学や技術の多面性を表す工夫をしたいと考えています。
そもそも科学とは、対象に直接触れ、自分の目で見て、自らの五感で感じることから始まります。そして、その始まり方も各人各様です。科学コミュニケーションも、そのような科学のスタンスを伝えるものでありたいと思います。
以上です。ご静聴、どうもありがとうございました。