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子どもの理科離れという現状において、「そもそも、理科実験とは何なのか?」という問題がある。理科実験とは自然の背景にある法則を探求する過程そのものであるので、基礎科学に従事し日々、研究を行っている科学者が科学実験プログラムの開発・実施を行う。
科学は自然現象の背景にある規則性・法則を発見することである。法則の発見は科学の歴史からの必然のステップでありながらも、今までの自然に対する「見方」を転換するものである。よって本理科教育プログラムでは、科学者が自然の現象に対する「見方」を提供することから始まる。人間が自然現象を「見通し」をもって発想するということである。自然現象の観察を行い、実験と仮説の検証というプロセスを経て、大多数が承認する自然の特性を記述した規則性・法則性の提案となる。大多数が承認するとは仮説を観察、実験によって実証するとき、同条件下では、同じ実験結果がえられるという条件が必要となり、これを再現性と呼ぶ。この再現性が法則を大多数の承認すること、つまり科学の「客観性」となる。
本科学教育プログラムにおいては、科学者がもつ自然現象に対する「見通し」から、仮説・検証のプロセスを経て、科学の言葉で実験結果を表現し、科学の「客観性」を提示するまでの一連の流れを実現した。
「そもそも、なんでだろう?」という問いかけから始まります。どのようなメカニズムがひそんだ現象なのか?仮説をたてます。
実験条件を整え、条件を制御パラメータとして特定します。実験結果を定量化するパラメータを測定パラメータとよび、制御パラメータを横軸にとり、測定パラメータを縦軸にとりグラフにします。
得られたグラフをもとに「なぜ、そうなったのか」と原因を考え、さらに実験を繰り返します。
定量化という科学の言葉にするプロセスを行うことで、「次にどうしたらいいのか?」という試行錯誤が可能になります。
ミクロのレベルで何が起こっていて、マクロレベルでの実験結果になっているのかを考えます。ミクロレベルにおける法則にもとづいたコンピュータシミュレーションを行い、「マクロレベルで、どのような現象がおこるのか」を実験します。 シミュレーションにおいても、ミクロレベルにおける制御パラメータとマクロレベルにおける測定パラメータを特定します。
グループで実験結果を考察し、議論します。
結果をまとめて発表します。
移り変わる自然の姿をどうやって予測できるのでしょうか?目の前にある自然を言葉にし、その移り変わりを予測したいというのは、人間の昔からの願いでした。自然の移り変わる姿を言語、数学、プログラミング言語を用いて明らかにしていきます。
コンピュータシミュレーションは、自然現象を現象から本質的な要素を切り出し、論理的に単純化したモデルの構築を行うことからはじまります。注目する現象の状態の移り変わりを記述するアルゴリズムを構築すれば、状態の移り変わりをコンピュータに計算させるのが便利です。従来の自然の原理においては、微分方程式などの解析的な方法でアルゴリズムの構築を行ってきたが、プログラミング言語を用いれば、四則演算のみでアルゴリズムを直感的に構築できます。
本科学教育プログラムでは、自然の原理を用いたアルゴリズムの構築に主眼を置き、様々な自然現象に対してコンピュータシミュレーションをおこないます。今回はボールの運動を題材に、数学という言葉である瞬間のボールの運動を記述します。次にコンピュータシミュレーションを用いて、ボールの運動を予測します。「位置、速度、加速度」の3つの階層の関係性を理解することで、自然が移り変わる姿を予測する法則を探求します。
スケートリンクで壁を押せば、壁と反対方向に進みます。ここでは押すものと押されるものが存在し、壁を押す力と壁から押される力が等しいという作用・反作用の法則によって運動が起こります。では真空中の宇宙空間で、ロケットはどうやって飛ぶのでしょうか?ロケットはガスを後方に噴射することで、ロケットの本体を前に進めています。これはロケットからのガスの噴射前と噴射後で運動量が保存されているからです。この宇宙空間での出来事を地球で再現するには、どうしたらいいでしょうか?力学台車の上に水のタンクをのせ、水平方向に水を噴射させることで、台車が前にすすみます。タンクに入れる水の量などを変え、台車の速度を測定します。基本的な力学の法則を一見、不思議に見える現象から、探求していきます。
「そもそも、物体が運動するってどういうこと?」身の回りの物体を投げたり、頃がしたり、滑らしたりするといづれはとまってしまいます。昔の哲学者は物体がとまることが本質ではなく「一度、動きはじめた物体は運動しつづける」という仮説をたてました。観察事実としては、運動をはじめた物体はすべてとまってしまうのに、なぜ物体が動き続けることが本質なのでしょうか。「床や物体の材質や、物体の質量をかえると、すべる距離はどのようにかわるのか」という実験します。さらに摩擦力を測定し、物体と床の材質のみによる物理量を探します。摩擦を加えると物体の温度は上昇しますが、この現象をミクロレベルでの法則にもとづいて、コンピュータシミュレーションを行います。摩擦によって加えられた力は分子の熱運動に変化し、物体の温度上昇という現象が現れます。
気球の大きさや、気球内部の空気の温度を変化させ、気球が上昇する力を測定します。気球が上昇する現象は、重力が空気にはたらくことが根本的な原因です。重力がはたらくことで、鉛直方向において空気がうける圧力に差が生まれます。次に空気中にある物体が受ける圧力を考えます。空気中にある物体はどんな形でも、空気から圧力を受けています。鉛直方向に対し上面と下面で物体が受ける圧力がことなります。この圧力差を浮力といいます。
一方、気球の内部の空気を暖めると、空気は膨張し密度が低くなり、気球内の空気に働く重力の大きさが、浮力より小さくなります。つまり、重力と浮力のバランスで気球は上昇します。空気がもつ圧力という性質をミクロレベルから考えると、圧力は空気の分子の壁への衝突によってうまれます。分子の運動をコンピュータシミュレーションで実験し、圧力がうまれる仕組みを理解します。
熱源からどうやって力を取り出せるのでしょうか?外燃機関を製作し、高温と低温の熱源から、熱のやりとりを行うことで仕事を取り出します。その時の熱機関の効率を計ります。熱源から仕事を取り出すことの一般的な理論体系を議論します。
導線に電流を流すと温度が上昇します。電流の大きさと温度上昇の関係を実験します。「そもそも、電流ってなんだろう?」ミクロレベルから考えると、電流は導体に電圧がかかることで、自由電子が一方向に流れている現象です。この一方向に流れる電子が、導体を構成する分子に衝突することで、導体の分子の熱運動が激しくなります。ミクロレベルにおける電子の流れをコンピュータシミュレーションで実現し、マクロレベルにおける発熱という現象を理解します。
この空間には目には見えませんが、地球の磁場が存在しています。空間に広がっている地球磁場の方向と大きさを測りましょう。 棒磁石と地球の磁石という二つの磁石で実験し、磁気モーメントという考え方を使って、磁石の性質を学びます。
電流を流すと周りに磁力線ができます。この磁力線を空間の中で重ね合わせることをイメージし、電磁石をつくります。導線の巻き方を変え、空間にできる磁力線の密度、磁力線によって生まれる力を測定します。電流がつくる磁力線をコンピュータシミュレーションで可視化します。
人間は遙か昔から、動いている物、燃えているものからエネルギーを取り出そうとしてきました。たとえば風車や水車をつくって、風と水から動力を取り出して来ました。火から動力を得られるようになった時、産業革命がおこりました。
「自然のエネルギーから力をとりだそう!」人間の歴史的なモーチベーションをもとに、自然のエネルギーを電気のエネルギーにかえましょう。有限である地球の資源を考えると効率よく発電しなければなりません。
エネルギーがその姿を変えるプロセスから力を取り出すことで、エネルギーという普遍的な概念を学びます。
空気の振動は、音として生物に認識されます。空気の振動数が連続的に変わることによって、人は音の高低を感じます。この連続的に変化する音に規則性をあてはめることで、人は音階をつくりました。弦の張力、長さ、密度を変え、出てくる音の周波数を測定します。さらに振動数を制御することで、音階をつくります。音階がもつ規則性とは、どういったものなのでしょうか。
光は「ある点とある点を最短の時間で結ぶ」という性質をもっています。この性質から「光の反射と屈折の法則」が導け出せます。鏡は光を反射するという性質をもっていますが、鏡を2枚合わせれば、光を何度も反射させることができます。合わせ鏡の角度と鏡の中に見える像の個数の関係には、どのような法則性があるのでしょうか。鏡の中に見える世界と光の経路との関係をレーザーを用いて実験で明らかにします。さらに光の経路と反射の原理を利用し、万華鏡を製作します。
万華鏡からみえる図形は「幾何学的に図形が2次元平面をどのように埋めるのか」という数学の問題になります。この数学の問題に対し、コンピュータシミュレーションを用いた解析を行います。
生物は膜によって、環境から隔てられている。この膜は、親水性と疎水性の両方の性質をひとつの分子の中にもっている界面活性剤という物質からできている。親水性の部分が外側を向き、疎水性の部分が内側を向くことで、膜は内と外の境界をつくる。
一方、生物は自発的な運動をする。生物は、化学エネルギーを熱のエネルギーに変えることなく、等温環境で化学エネルギーを運動エネルギーに変換している。人がつくる機械は、化学エネルギーを熱のエネルギーにかえてから、運動のエネルギーを生み出す。例えば、エンジンは石油を燃やすことで動力をえている。しかし生物であるヒトのからだは36度という恒温で、有機物のエネルギーから動力を得ている。化学的なエネルギーを熱に変換することなしに、運動のエネルギーに変換できないだろうか。
また生物の膜は界面活性剤という物質からできている。表面の張力を変えるという界面活性剤の性質を利用して、動力をつくれないだろうか?本研究では、水中に膜をつくり、膜と環境との相互作用で、駆動する液滴をつくる。
地球は太陽のエネルギーを吸収し、熱のエネルギーを宇宙に放出しています。大気は地球上を大きく循環することで、エネルギーの輸送の役割を果たしています。生きている地球とは、大気の循環で地球の恒常性が保たれていることです。この教育プログラムでは、アクリルケースの中に砂と水と植物をいれ、白熱灯から光エネルギーを送り込みます。大きな大気の循環をつくることで、生きている地球の姿を実感します。
サラサラな土、ザラザラな土、といろいろな感触の土があります。黒い土、赤い土などいろいろな土の色があります。五感によって土を観察すると、感触や色など主観的な言葉がまず、生まれてきます。この主観的な言葉をだれもがわかる科学の言葉にします。一方、土には、給水という働きがあります。土の種類と、土のはたらきの関係を調べましょう。
机の上の小さな世界で雪の結晶をつくり、目に見えない上空の世界を想像します。中谷宇吉郎が「雪は天から送られた手紙である」であるといったように雪の形から上空の気象の状態を知ることが出来ます。雪を人工的につくってみて、その時の実験条件から上空の気象の状態と、その時に降ってくる雪の結晶の形との対応を調べます。身近な素材で雪の結晶をつくり、空気の対流、室温や水蒸気の量を変えながら雪の結晶の形を調べます。さらに雪の結晶の形から、見ることはできない地球の上空の気象環境を予測します。
「どうして樹状の雪の結晶ができるのでしょうか?」自然で見られる雪の結晶のほとんどを再現した中谷博士でしたが、ひとつ残した仕事がありました。雪が出来てくる過程のメカニズムを明らかにすることです。このメカニズムの解明にはコンピュータサイエンスという分野の確立を待たなければなりませんでした。
コンピュータの中の世界で雪の結晶をつくる実験をします。雪の結晶ができるアルゴリズムを発見し、実験条件を変える中で、いろいろな結晶の形をつくる地球上空の気象条件を考察します。