第6回「山の教室」の様子
はじめに
当日の1週間前に行われたミーティングに参加する。
これが私にとってnatural scienceミーティングへの初参加でもある。
他のスタッフは今回の舞台である奥新川の下見をすでに済ませており、「炎・光の科学」と「生物の科学」の2本柱で行うことが決まっていた。
生物の科学に関しては、林さんのなかで具体的な計画があるようなので、こちらは彼に任せることにした。
いっぽう、炎・光の科学に関しては、薪で火をおこし、その炎を使って炎色反応を実演・体感してもらうのはどうだろうか、そしてそれを手製の分光器で観測できないだろうか、といった議論がされていた。
ほとんど知らない状況での参加であったからか、薪の火をおこす、という、 非常にシンプルなテーマの担当となった。
making その1:炎色反応?火のおこし方?
当日までの1週間は、本屋で買いあさった一般向け科学書籍を読みあさったり、 妻と相談したり、インターネットで有益な情報を探したりして、知識を補充や 当日の実演のアイデアを練った。
そもそも 炎色反応 とは何だっただろうか、ということから復習し始め、 どのような物質が炎色反応を示すのか、どうやったらうまく観察できるのか、 なぜ色が出るのか、ということを、にわかに調べ始める。
また、一言で火をおこすと言っても、考えてみれば様々なおこし方がある。 最初はライターと固形燃料を使うという、いたって現代的な発想を していたのだが、それ以外にも、例えば、もみぎり(火きり棒を両手で はさんで、もむように回して火をおこす方法)といった摩擦熱を利用する 方法や、または虫眼鏡で光を集め太陽光を利用する方法などは、 natural scienceの趣旨にあっているかもしれないと思った。
もみぎりは小さい頃試したことがあるが、 火がおこるところまでは行かなかったように記憶している。 経験が必要だろう。 調べてみると、もみぎり以外にも、ゆみぎり、まいぎり、 など、摩擦熱のおこし方にもいろいろあるのだ。 特にまいぎりは、装置さえ作ってしまえば未経験者にも 簡単に火をおこせそうだ。 しかし今回は装置を作成する時間はない。 虫眼鏡に関しても、現場は谷間に位置しているから 直射日光は届かないかもしれない。
というわけで、結局、ライターと固形燃料を買い、これらで火をおこすことにする。
making その2:紙なべ予備実験
火関係で調べていくと、おもしろそうなものを幾つか探し出せた。
紙製の鍋でお湯を沸かす:
和風レストランなどで時折、紙でできた鍋に具材を入れた鍋料理などを見かける。
または飛騨高山の郷土料理の朴歯(ほおば)焼きも同じようなものだ。
紙に直接火をかけるとすぐに燃えてしまうが、そこに水や具材が入っていると、
火の熱がそちらに伝わるので燃えない。熱伝導に関連した実演になる。
予備実験として、コピー用紙で作った簡易式紙鍋と、紙コップそれぞれに水を入れ、ガスコンロにかけてみることにした。
弱火にかける。コピー用紙のほうは、加熱後2~3分後に水が漏れ始めた。 加熱によって紙が浸透しやすくなったのだろうか。いずれにせよ薄いために うまくお湯を沸かせそうにない。
一方の紙コップは、底の水に触れていない部分はすぐに 焦げ出すが、5分程度でコップの底から気泡が出てきた。
試しに飲んでみるとずいぶん熱い。若干焦げ臭さが水に移っているが、 ほうじ茶やコーヒーを飲む際にはほとんど気にならない程度である。
結果としては、紙コップでお湯を沸かすことはできそうである。 当日の薪を使った火力調節がどの程度うまくいくかが、うまく再現できるかを 左右しそうである。
making その3:空き缶つぶし
ほかにも、
空き缶に水蒸気を充満させ水の中につけるとグシャリとへこむ、
というのもおもしろい。
これは、
1.水蒸気と水の同一質量における圧倒的な体積差(およそ1000倍)
2.大気圧
という2点に関連した現象としてとらえることができる。
やけどに注意をすれば、割と簡単に試せることがわかった。
ただ、2時間ということを考えると、これは次回以降でもよいと思われる。
making その4:炎色反応予備実験(スタッフ3名で)
本番前日の午後に、スタッフ3名で炎色反応の予備実験を行う。 林さんが所属研究室から用意してきた試料をアルコールに溶かし、 それを脱脂綿に含ませ、燃やしてみることにする。 針金で脱脂綿を絡め、もう一方を木枝に絡めて火をつけてみる。 よく見る実験はガスバーナーを用いているので、火力が足りるのか という心配もあった。
実際に行ってみると、試料に応じていろんな色が出たのは、 当然のこととはいえ、歓声が上がった。
当日 その1:火おこし、炎色反応
会場に到着する。どこに火おこしの釜を作るか、炎色反応の試料をどこに配置するか、 炎との位置関係などを考えながら会場設営を行う。
ライターと固形燃料を用いた火おこしには さほど時間がかからなかったが、薪が少し 湿っていたせいか、火力が安定しない。 ときどき弱々しくなるが、炎色反応の試料に 火をつけるだけなら、この程度の火力が むしろ都合がよいかもしれない。
10時過ぎに参加者が沢に降りてくる。
さっそく火のおこっている釜へ、こどもたちがやってくる。
まずはホウ酸の炎色反応を実演する。
こどもたちには、炎色反応の説明をするのではなく、 いろんなものを燃やしたときの色の違いを体感して もらうことにする。
当日 その2:紙コップなべでお湯を沸かす
紙コップの実演は、意外と、スタッフとして参加してくれた学生さんや、
保護者の方たちの反応がよかった。
紙は火にかけると燃える、
という普段の常識に反したこと
だからだろう。
紙コップの上部(水に触れていない部分)も すぐに焦げてしまうが、水に触れている部分は 焦げない。
比較として空の紙コップも火にかけるとすぐに焦げ、 燃えてしまった。
紙コップでわかしたお湯でコーヒーを飲む。
2時間という限られた時間の中では、火おこし、炎色反応、紙コップ鍋だけでも 盛り沢山だった。
さいごに
実演したことに対して、科学的な説明はほとんど行わなかった。
なぜこんなことが起こるのだろうかといった疑問を抱くこと、
じゃあほかの場合はどうなるのだろうと確かめてみること、
いろいろ考えてみること、
そういった過程のほうが大切であると感じたからだ。
実際にそういう過程を楽しんでもらえたのなら、今回のイベントは 有意義だったのではないだろうか。