水が一瞬で氷になる?! 過冷却水の氷結(第7回「雪の教室」)
前日: かまくらづくり
前日24(土)、本番当日のための会場設営を行う。
雪の結晶観察とアイスクリーム作製のためにそれぞれ雪でつくったテーブルを1台ずつ、
それと、分光実験と過冷却水生成のためにそれぞれかまくらを1基ずつ作ることにした。
当日は水の過冷却状態をつくる予定だ。過冷却水をつくるためには水を静かに冷やす必要がある。
つまり風で水面が揺れることがなく、雪が落ちない状況が必要である。
スキー場のゲレンデは、低温という意味では好条件だが、ほとんど常に風が吹いている。
加えて、当たり前のことだが、天候が崩れれば雪が降る。
そこで、かまくらを作り、その中で過冷却実験を行うことにしたのだ。
なにより、かまくらがあったほうがイベントとしても楽しそうだ。
大人とおなじくらいの高さの雪山をつくり、固め、そして穴を掘る。これが、
かまくら作りの全工程だが、慣れない作業は結構な重労働だった。
暖冬の影響か、そもそも雪が少ない。
スキー場運営会社に依頼して周辺の雪を除雪機で会場に集めてもらった。
それを積み上げ山にしていくのだが、ここの
雪はあまり水分を含んでいないため、なかなか固まらない。
スキー場施設のトイレから繰り返し水を汲んできては雪山にかける。すると雪山はしっかりとした堅さになった。
雪山ができたらあとは入り口から穴を掘り進めるだけだ。掘りすぎないように慎重に掘りすすめる。
雪山を大きくしておいたおかげで、大人2人は十分に入れる程度の大きさに仕上がった。
当日: 条件出し
さて本番当日。
幸い天気に恵まれた。さらに、前回を大きく上回る25組を超える親子が参加するとのこと。
スタッフの顔も引き締まって見える。地元のテレビ局数局も取材のために来るらしい。なんだか緊張するなぁ・・・。
過冷却ブースは、大塚さんに加え、松本さん、小黒さんの3人にスタッフとして参加してもらう。
過冷却水生成の過程を本番開始前までにスタッフで一度は確認したかったのだが、結局本番直前までうまくいかなかった。
天候や外気温度に簡単に左右されてしまう。ちょっとした条件の違いでうまくいかないのだ。非常に繊細な実験なのだということを確認して、いよいよ本番に臨む。
過冷却水生成の条件出しは以前から試行錯誤を重ね、当日は以下の方法を行うことにした。
実験方法
用意するものは、大小2つの容器、大きめの発泡スチロール容器、濃い食塩水、
それと真水。小さい容器は金属製のものを使用する。これらはすべて日用雑貨店で購入できる。
大きな容器にあらかじめ冷凍庫で冷やしておいた濃い食塩水(飽和食塩水)を入れる。(注:水に塩を入れると凝固点降下をおこす。飽和食塩水は冷凍庫で
も凍らない。)
発泡スチロール容器に塩を混ぜた雪を入れ、ここに飽和食塩水の入った容器を入れる。
(注:やはり凝固点降下のために、塩を混ぜた雪はどんどん溶けてい
く。溶ける際に、(1)潜熱と、(2)塩水になる過程で、周りから熱を吸収するために、
塩を混ぜた雪は寒剤となる。)
こうすることで、容器内の飽和食塩水は低温に保たれる。(当日の条件では、塩を混ぜた雪は-10℃、飽和食塩水は- 5℃をそれぞれ下回っていた。)
次に金属製の容器に真水を薄く(厚さ5mmくらい)入れ、容器を冷やしておいた飽和食塩水に浸す。
この真水は金属を通して濃食塩水によって冷やされ、やがて氷点下になる。静かに均一に冷やすことができれば氷点下でも水のままで、
これで過冷却状態の出来上がりである。
静かに冷やすために、発泡スチロール容器にふたをし、数分間待つ。ゆっくりふたを開ける。もし金属容器内の水が過冷却状態になっていれば、そこに小さ
な氷のかけらを落とすなど、ちょっとした刺激を与えると水が一瞬で凍る様子がみられる。
とまあ、文章にすると簡単にできそうだが、ふたを開けてみるとすでに凍っていたり、
逆にまだ過冷却状態になっていないために、氷のかけらを落としても何も起こらなかったり、
というように10時の本番開始後30分ほどはなかなかうまくいかなかった。
うまくいかない・・・。
当日の条件出し、つまりこの気温ではどのくらいの時間をかけて冷やせばよいのか、
などを確かめつつ実演を並行していたこともあるが、いま振り返って思えば、
観察する人々の期待感からくる緊張のために、焦ってついつい冷却時間を短くしてしまったり、使用して汚れた金属容器を十分に濯がずに使ったりということも原因だろうか。
過冷却水生成に成功!
開始後30分ほど経過しただろうか。すでに5回ほど失敗している。なかなか成功しない焦りの中で、
しかし次第に、冷やす時間は大体2~3分が適切なようだという感覚をつかんできた。それより短いと過冷却状態にはならず、逆に長いと凍ってしまう。
気を取り直して改めて挑戦する。
ゆっくりふたを開ける。まだ水のままだ。一組の親子と、スタッフが注目する中、小さい氷のかけらを水面に落とす。
次の瞬間、氷のかけらを中心に一瞬のうちに白い筋が放射状に広がった。
成功だ!過冷却水ができていたのだ。水面に落とした氷のかけらが刺激になって一瞬で過冷却水が凍ったのだ。
「お~!」「すごい!」歓声が上がった。事前実験ですでにこの様子を観てはいたが、達成感もあって、改めて感動した。
そのあとも失敗は繰り返した。特にTVカメラを前にすると、緊張からか失敗してしまう・・・。 しかしTV局の方にもようやくその瞬間を撮影してもらうことができた。1時間を過ぎたあたりから成功率は50%を超えるようになった。
過冷却水氷結の様子(ムービー:mpeg 33.8MB)
氷が一瞬で溶けるというのも、不思議なんだなぁ
スタッフのみなさん、どうもありがとうございました
成功してからは、私も含め、スタッフの張り切り具合が、がぜん上がった。
「水が一瞬に凍りますよ~」。松本さん、小黒さんの人集めのおかげで多くの方々にその瞬間を見ていただくことができた。
小黒さんに過冷却水作りを交代してからはさらに成功率が上がったかな。
イベントを通して大体10~15組くらいには観てもらえたのだろうか。
こうやって後半の1時間はあっという間に過ぎていった。
ほかのブースをみる時間はなかったが、どこもうまくいったようだった。 天気に恵まれたということもあるだろうが、なによりも事前の準備に時間をかけたことや当日参加のスタッフの方々の応援あってのことだと思う。
実験に協力してくださった皆さん、当日までの準備をしてくださった皆さん、 会場設営を行ってくださった皆さん、 そして自然のいろんな側面を体感しようという当イベントの趣旨に興味を示し参加された親子の皆さん、 どうもありがとうございました。
どうしてだろう?
身近な道具をつかって、過冷却水の生成とその氷結の様子を実演することができた。 この実演を通じて、子どもたちだけに限らず、様々な疑問が起こったのではないだろうか。
- なぜ過冷却水は氷点下でも凍らないんだろうか?氷点下をどのくらい下回っても水のままでいられるのだろうか。
- どうしてちょっとした刺激で一瞬のうちに凍っていくのだろうか?
- 放射状に、枝が生えるように凍っていくのはどうしてだろうか。
- なにかこの性質を使って実用的なモノはできる(つくられている)のだろうか。
などなど。
準備と実演を通して、私も、水の状態変化の際に現れるいろんな不思議な現象をもっと知りたくなった。