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五感ってなんだろう? ―音の3次元空間における認識

文責:林 叔克 (2008年3月20日) カテゴリ:視覚・聴覚刺激の統合によるヒトの動的な適応性の最適化(3)

ふとした疑問から始まる、週末研究。 人は音がどこから聞こえてくるか、どのように認識しているのだろうか? 空間の中で、音の発信源を認識する仕組みにせまる。


研究の背景

生物は刻々と変化する環境の中で生きている。生物はどのように環境の情報を得ているのだろうか? 原始の地球において、生まれた生命は、膜一枚で環境と隔てられていた。この膜一枚が、感覚器官として環境の状態を知覚する。人間も皮膚という膜一枚で環境から隔てられている。高等生物である人間は目による視覚、耳による聴覚、鼻による嗅覚など、膜が分化し、環境の条件を認識するための感覚器官が発達している。

人間は空間において音源の位置を認識しているが、どのような仕組みで音源の空間配置を認識しているのだろうか? 音とは空気の振動のことであり、波の強さと周波数によってあらわされる。空気の振動が耳の鼓膜に伝わり、鼓膜の振動が聴覚細胞に伝わることで音が認識される。音源からくる空気の振動から、どのように音源の場所を認識しているのだろうか。耳がふたつあることを考え、以下のような問題を設定した。 

1.左右の耳にはいる音の位相の違いで、音源の空間配置を認識しているのだろうか?
2.左右の耳にはいる音の大きさの違いで、音源の空間配置を認識しているのだろうか?


実験手法1

1.位相の相違による音源の認識の実験
LABviewによってプログラムを組み、パソコンからイヤホンに音を出力する。イヤホンをつけた被験者に左右の音の位相の差異によって、どの方向から音が聞こえているように感じるかを答えてもらう。

実験の手順
1.周波数500Hzのサイン波をつくる
2.以下の位相のパターンを左右の耳に出力する
パターン1.左:y=sin(wt) 右y=sin(wt-π/2)
パターン2.左:y=sin(wt) 右y=sin(wt)
パターン3.左:y=sin(wt-π/2) 右y=sin(wt)
3.左右から聞こえる音の位相パターンに応じて、
・左に音源があるように感じれば、1を答える
・前に音源があるように感じれば、2を答える
・右に音源があるように感じれば、3を答える


実験手法2

1.音の大きさの相違による音源の認識の実験
LABviewによってプログラムを組み、パソコンからイヤホンに音を出力する。イヤホンをつけた被験者に左右の音の大きさの差異によって、どの方向から音が聞こえているように感じるかを答えてもらう。

実験の手順
1.周波数500Hzのサイン波をつくる
2.以下の位相のパターンを左右の耳に出力する
パターン1.左:y = sin(wt) 右y = 0.5*sin(wt)
パターン2.左:y = sin(wt) 右y = sin(wt)
パターン3.左:y = 0.5*sin(wt) 右y = sin(wt)
パターン4.左:y = 0.5*sin(wt) 右y = 0.5*sin(wt)
3.左右から聞こえる音の位相パターンに応じて、
・左に音源があるように感じれば、1を答える
・前に音源があるように感じれば、2を答える
・右に音源があるように感じれば、3を答える


LABviewによるプログラミング

LABviewにサンプルにあるGenerate Sound.viというファイルを変更した。左右のイヤホンから、大きさや位相の異なった音を左右のそれぞれのイヤホンに出力するために、4種類の音の波の波形が出力できるように、sin関数のy軸に対する大きさや位相を変え、配列に代入した。LABviewの列挙体という条件分岐を使って、出力する音のパターンの音を選択した。


実験結果

今回の実験では出力する音のパターンを、パターン1→パターン2→パターン3というように不連続的に変化させた。 音を変化させて数秒以内に、被験者に聞こえてくる音の方向を答えたもらった。被験者3人に実験を行った結果、初めての実験の結果として、定性的だが、以下のような傾向があることが考えられる。

1.今回採用した音の周波数と位相差の実験条件では、左右のイヤホンから聞こえてくる音の位相差がないときには、前に音源があると認識し、聞こえてくる音の位相差があるときは、左右のどちらかから、音が聞こえてくるように認識しているようだ。しかし、左右のどちらから、音が聞こえてくるのかの分類に有意差は見出せなかった。

2.聞こえてくる位相が変わる瞬間に、音の聞こえてくる方向が変わったのように感じられた。しかし、音を聞き続けると位相差の違い、音源の方向の認識がだんだんできなくなるように思った。

3.今回採用した音の周波数と大きさの実験条件では、音の大きさに関しては、前、右、左の差が認識されているといえそうだ。音が大きい側に音源があると認識されている。


さらなる疑問と今後の予定

1.ヒトが音源の空間認識するときには、短い時間で発せられる音での認識、あるいは長い時間持続している音での認識にちがいがみられるのだろうか。

2.連続的に音の位相を変化させた場合、不連続的に位相を変化させた場合での、音の空間認識の差異をさぐる

3.定量的なデータをとるために被験者に対する実験の手順を、整理する。 たとえば、3秒間ごとに音の出力パターンを変えていくなど。

4.音の空間配置の認識が、音の変化に対して、微分的に反応しているのか、積分的に反応しているのか。音の出力パターンが変わった瞬間に、空間配置の認識が生まれるのであれば、音の変化を時間微分によって、知覚していることになるのではないか。



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