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ダンゴムシの家族って、お互いがわかっているのかな?(第11回「森の教室」)

文責:福島 愛 (2008年6月 7日) カテゴリ:体験型自然科学の教室(4)

あなたは、自分の顔を知っていますか?    これは、当たり前かな?
友達や家族の顔を知っていますか?      これも、当たり前かな?

実は、自分の顔がわかる、というのは、大変難しいことなのです。
人間以外では、チンパンジーやイルカ、ゾウなど限られた動物でしか鏡に映った顔が自分の顔だと、判断できないんですって!

自分の顔はちょっと横においといて。
今回は、仲間が分かる、ということに注目しようと思います。

多くの動物は、自分の顔はわからないけれど、仲間の区別ができます。

ペットを飼っている人は、
ペットが自分と家族、裏の家のペットと隣の家のペットを区別しているのを感じたことはありませんか?
相手によって態度が変わる、なんていうのも、相手を区別している証拠ですね。

私の経験では、犬や猫、スズメは相手の区別がついていると思います。
金魚やフグなど、魚は・・・飼っていたけれど、区別をしていたのか否か記憶がありません。
他は飼ったことがないから、わかりません。
今回は、その他の動物が相手の個体認識が出来るのかを調べるために動物のなかでも進化的に古いダンゴムシに着目してみました。

多くの虫と違って、ダンゴムシのお母さんはダンゴムシ赤ちゃんが歩けるようになるまで、お腹の袋で卵を大事に育てます。
(*ダンゴムシは昆虫でなく、カニやエビの仲間です。)
すなわち、卵を産んだら死んでしまう多くの昆虫お母さんと違って、ダンゴムシお母さんは、自分の子どもを知っているのです。

ダンゴムシは、社会性動物としては知られていませんが、 生まれたときからお母さんを知らないほかの虫と違って、 ダンゴムシは家族の区別がつくのかな?? とおもったのが、この実験の始まりです。

ダンゴムシお母さんは、自分の子どもを見つけられるのでしょうか!?


調べたいこと

別々の場所から採集したダンゴムシ・ワラジムシ(ダンゴムシととても似ているけれど、丸くならないもの)を、一緒の場所に置いた時、元々一緒にいた仲間で集るかな?元々一緒にいた仲間を区別して見分けられるかな?

これを調べるために、二つの実験を行います。

実験1

2箇所から捕獲したダンゴムシ・ワラジムシを混ぜた時、
一定時間後に、元いた仲間同士で集っているか?

実験2

ダンゴムシたちは、土の好みがあるのか?
実験1で、家族で集った場合、お互いを認識して集ったのか、 好みの土(捕まえられる直前の環境と似ている土)があって、 その上にたまたまいただけなのかを 分けるための実験。


実験1の手順 実験者、20年ぶりくらいに、ダンゴムシ探しをする。

ダンゴムシ・ワラジムシに 色をつけて識別する。
同じ場所いたダンゴムシ・ワラジムシは、同じ色で。

別の場所にいたダンゴムシ・ワラジムシと一緒にする。
土は、森林公園のものを用いる。

ダンゴムシ・ワラジムシが一様に混ざったのを確認したら、
アルミホイルで遮光して、しばし待つ。

元々一緒に住んでいたダンゴムシ同士で集るかな?
ワラジムシはどうかな?


実験2の手順 ダンゴムシたちは、住んでいた場所の土を覚えているかな?

実験1で、家族で集った場合、お互いを認識して集ったのか、
好みの土(捕まえられる直前の環境と似ている土)があって、
その上にたまたまいただけなのかを分けるための実験。

二つの離れた場所のダンゴムシ・ワラジムシを使う。
採集時に、土も一緒に採集する(青葉区八幡)。
一つの容器に2種類の土をいれ、それぞれのダンゴムシ・ワラジムシをいれる。

ダンゴムシたちが容器の中で一様に存在するのを確認したら、
アルミホイルで遮蔽し、しばしまつ。


ダンゴムシたちはどうなったかな?

ダンゴムシはダンゴムシで集っていました。
でも、ワラジムシは、遮光していたアルミホイルを開けた途端に散っていくから、よくわかりませんでした。

でも、土の好みはないみたい。


分かったこと

ワラジムシは、足が速く、蓋を開けて光を入れたとたんに一目散に逃げていくので、元々同じ場所にいた仲間と一緒にいるのかどうか、あるいはワラジムシ同士で一緒にいるのか、この実験系では分からない。

ダンゴムシは、ダンゴムシ同士で集っている。
でも、家族同士で集っているわけではない
←たまたま同色でマークされたダンゴムシが一緒にいることもあったがフェロモンによって集合しているなら、もっと確実に家族集合が見られるはず なので、「集っているわけではない」と結論づけました。


<今回の実験で、考えたこと>

相手を個体レベルで同定する能力とは・・・

私たちは、例えば動物園に行った時、友達の家のペットをみた時、動物達の顔を個体レベルで区別することはなかなかできません。

しかし、同じ人間同士なら、家族や友達が、誰が誰か顔で区別することが出来ます。
この人は友達、この人は知らない人、ということを顔で区別することができます。

ダンゴムシの目は明るさの区別しか出来ませんから
もし、仲間の区別が出来るとすると、それは各自の匂いから、ということになるのでしょう。

今回の実験より、ダンゴムシはダンゴムシか否か、という種の区別はつくようですが相手が家族なのか他人なのかの区別はできないことがわかりました。
一回に何十匹も子どもを生むダンゴムシは、それぞれの子どもを区別をすることにエネルギーはかけれないのかもしれません。
生きていく上で、最も重要なこと:自分達の種を存続させるには、家族間の区別よりも、自分の命を守って、いかに子孫を残すかにエネルギーを費やさないのいけないのかもしれません。

だから、個々の区別はできなくても、仲間同士で集ってくることは出来るのでしょう。
仲間で集らないと、パートナーと出会いにくくなりますから。

もし、私たちが仲間の顔の区別ができなくなったら・・・?
想像してみてください。
人がたくさんいる中で、どれがお父さんで、どれがお母さんで、どれが友達か全然分からなくなったら??

考えただけでも怖いですね。
私たち人間には、仲間を識別する能力は大切なものなのです。

仲間を区別する私たちと、区別しないダンゴムシ。
違いはなんでしょうか。

私は「社会性」であろうと考えています。
多くの虫と違って、自分で子どもを保護するダンゴムシも、
社会性があるとは言われていません。

個々の仲間を区別する能力が、どの動物にあって、どの動物にないのか私にはわかりませんが
少なくとも、私たち人間は生まれてからずっと、成長して大人になってからも家族や仲間で支えあって生きていることと、今回のダンゴムシの仲間認識の結果とは関連があるのではないでしょうか。 ダンゴムシにとって種の存続は、生きていく上で最も重要なことでしょう。
しかし私たちの生きていく目的は、種の存続、すなわち子孫を残すことだけではありません。

今、認知科学の研究によって
私たちが友達や家族の写真や名前を見て「あ、これXX(お父さん)だ」と思ったときには、その人が実際に目の前にいなくても(写真だけ・名前だけでも)、意識していないうちに社会性に関する思考(心の理論=相手の気持ちや行動の意味を考える)が働いている事が明らかになっています。

すなわち、顔や名前そのものが社会的な役割を担っているのです。
自分と相手は違う「個」であり、違う経験や考え方をもっていることを、私たちは無意識のうちに理解しているのです。

私たちは私たちに与えられたこの「他者を識別する能力」、に意識をむけて違う個性の者同士、一緒に生きていく意味を、もう一度振り返り、大切にしたいとこの実験を通じて改めて考える機会を私は得たように思います。



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