蒲生干潟の生物のはたらきを測定しよう!
干潟におけるフィールドワーク
潟には豊かな生態系が存在します。全国的にみても蒲生干潟は貴重な干潟です。毎年行われる体験型自然の教室「夏の教室」では、蒲生における生態系と水質調査を行い、干潟の生態系の経年変化を捉えた実験データとして蓄積していきます。さらに「生き物がつくる環境」という視点から、底生動物に着目し、その生き物の生活史と干潟という環境での役割を明らかにします。
本エコツアーは東北大学生態システム生命科学専攻の占部先生、鈴木先生に「干潟の生態系」についてお話しを聞かせていただきました。生態系の調査は「干潟底生動物調査ガイドブック」(日本国際湿地保全連合)にしたがっておこなっています。
干潟とは?
干潟は、満潮の際に冠水しても水深が浅いため、太陽光が底までと届き、底土は干出する度に空気中の酸素の供給をうけることから酸化的に保たれる。さらに、栄養素が河川から供給されるので、干潟では、水中にプランクトンが増殖し、動植物の破片・死骸・排泄物を餌とする底生動物が豊富に存在する。渡り鳥が干潟に多く集まるのは、底生動物を餌としているからである。このように干潟は生態系が凝集する場所である。マクロにみれば、干潟は無機物が流れ込み、生態系の中で有機物が生産されるシステムである。しかし、この生産性の高さは、多様な生物が関係しあうことにより成り立っている。
このように生物多様性に注目し、本エコツアーでは、干潟の生物の生活を明らかにする研究を実施する。特に干潟の生物の代表である底生動物に着目し、その生物がつくる生息空間の原理を明らかにする。多様な生物の生活史を明らかにすることができれば、その総和として、干潟がどのような役割を担っているのか、議論できるはずである。
干潟の生態系
干潟をマクロな視点からとらえると、河川と海流からの有機物・無機物の流入がある。それらの豊富な栄養素をもとに、プランクトンが繁殖する。干潟の生態系で特徴的なのは、プランクトン・動植物の死骸を主な餌とする底生生物(ベントス)である。干潟は、底土が砂質から泥質でやわらかいので、底土に巣穴を掘って、捕食者から隠れたりするゴカイなどの多毛類や、コメツキガ二などの甲殻類がせん優占してくらしている。これらのベントスは、巣穴を掘ることで地中の土を表面に運び、土を酸化的な状態に保つ役割をしている。底土が酸化的な状態に保たれることで、好気性微生物が繁殖し、これらはまたベントスによって捕食される。このようにベントスが存在することで、干潟では多様な生態系が成立している。
調査結果
調査場所(蒲生干潟の概略図)
8月3日の「環境を測るエコツアー」では、
1.泥・シルトの成分の多い場所
2.レキ・岩石が多い場所
3.砂の成分が多い場所3カ所で生物を探しました。
それぞれの場所で発見した生物の種類と数は以下でした。
捕まえてきた生き物を題材に、それぞれの生き物がどのような生活をしているかの話をしました。
調査場所1:泥・シルトの成分が多い場所
コメツキガに 23匹
チゴガ二 5匹
調査場所2:レキ・岩石が多い場所
ゴカイ 7匹
アシハラガニ 5匹
調査場所3:砂の成分が多い場所
アサリ 25個
ハマグリ 1個
貝類は入水管から海水を取り入れ、プランクトンをフィルターでこして、栄養を摂取しています。貝類の海水を濾過する機能でどれほど、海水の透明度が増すかを実験しました。500mlの濁った海水の中に10数個のアサリを入れると数10分で海水の透明度が増すことがわかりました。
海水の透明度が増すことで、太陽の光がより海底まで届くようになり、海底における藻類の繁殖を促進します。藻類の繁殖は干潟における有機物の生産量の増大になり、干潟の多様な生物と生物量を支えます。
干潟にはたくさんの巣穴が見つかります。その中でもっとも多いのががコメツキガニの巣穴です。コメツキガニを観察していると、ハサミを砂粒につけては、口に運んでいる様子が見えます。これは砂粒についている藻類を食べているのです。また巣穴の周りには、砂団子が転がっていますが、これは巣穴を掘る際に運びだしたものです。巣穴は十数cmあり、深いところの砂が表面に運ばれることで、砂が空気中の酸素にふれ、微生物が繁殖しやすい酸化的な環境がつくられます。コメツキガニはせっせと砂浜を耕しているとみることができます。
このように干潟に生きる生物たちは、それぞれ自分の都合で食物をとったりしてるわけですが、干潟における環境というマクロな視点からみると、環境の生物多様性を支える役割を果たしています。
実施概要(第12回体験型自然科学の教室)