社会性昆虫の考察
生物は、何を最適化しているのか?
生物は、ある目的のために進化してきたのか?
- 1. 目があるから、見える。
- 2. 見るために、目がある。
- 3. 見るためには、目が必要なので、目が生まれた。
ヒトは、合目的に考える傾向があるので、ともすれば、3のような考え方に陥る。 実際に、ある目的を達成するために、画像処理を行うディバイスを開発したりする。 しかし、生物はその進化の過程で、自然環境によって、種が選択された結果、 現在のような形態になっている。生物に目的はない。
さらに、しかし、人間が生物を研究する場合には、 生物が、進化の過程の結果、獲得した形態・性質が、何を最適化しているのかを考えるという方向性は重要である。
社会性昆虫であるトゲオオハリアリという種において、
- 1. 働きアリは、すべてメスで卵巣を発達させ、雄を生むことができる。
- 2. 女王アリは、ワーカーと接触することで、卵巣の発達を抑えることができる。
- 3. 女王アリは、3時間以内に、すべてのワーカーと接触するためのパトロール行動をとる。
ここで面白いのは、女王アリが、支配的に女王とワーカーとの階層性を維持するのではなく、 ワーカーも階層性の維持に協力をするという行動をとることである。 つまり、ワーカーは自らの遺伝子を残すという利己的な行動をとることを抑制し、 コロニーの生産性維持のための行動をとるということである。 具体的な行動としては、ワーカーポリシング行動が知られており、 ワーカーが生んだ卵が、他のワーカーに破壊される。
コロニーサイズが大きくなると、女王アリは、パトロール行動をあきらめ、
ワーカーが産卵を始める。つまり、ワーカーは利己的な行動を取り始めるということである。
一方、ワーカーの産卵行動は、新たなコロニー形成につながるものであり、
より広い環境に適応するという種の繁栄にかなっている。
コロニーサイズによって、ワーカーは、コロニー維持のために働くことから、自己生産へとモードを切り替える。
個の生物がとる戦略を合目的にまとめると、
- 1. 利己的な行動:自らの遺伝子を残す。
- 2. 利コロニー的な行動:コロニーの維持のために労働する。
- 3. 利種的な行動:より広く環境に適応し、種を存続させる。
そして、これはあくまで、見方の問題で、それぞれの個体が合目的に行動しているわけでない。 社会性昆虫において、研究していることは、こういった戦略が、どのような個々の相互作用で、 結果、生まれてくるのかということである。 個々の相互作用に、因果関係の「因」の部分が存在する。 結果、進化の過程で、選択された「生物の戦略」が生まれる。
個々のアリのコミュニケーションの結果、コロニーという女王アリとワーカーのヒエラルキーが形成される。 見方として面白いのは、女王アリは支配的にコロニーを維持しているのではなく、 個々のワーカーもコロニーのヒエラルキーの維持に協力している、というところである。
参考文献:琉球大農学部 亜熱帯動物学講座 辻研究グループ
K. Tuji, K. Egashira, and B. Holldobler, Animal Behaviour, volume 58, page 337, (1999).