琉球大農学部辻グループとのディスカッションI
本日、琉球大学 農学部 亜熱帯動物学講座辻研究室のセミナーにて今まで行ってきた研究の発表・ディスカッションを行った。 ここではそこでの内容を大まかにまとめる。
I.発表内容「トゲオオハリアリの女王が示すパトロール行動の解析とモデル化」
本研究は社会性昆虫のコロニー形成のアルゴリズムを研究する。 トゲオオハリアリは女王蟻が3時間以内にすべてのワーカーに対してパトロールを行っている。 しかし、トゲオオハリアリの巣内は真っ暗であり、視覚による認識は困難である。 しかも、閉鎖された巣内ではフェロモンが充満してしまうためコミュニケーション手段は直接接触に限られる。 それにも関わらずトゲオオハリアリの大半は休んでおり、ある一瞬にコロニー内で何%のアリが動いているかというactivityは約4~10%程度である。 そこで、逆にアリの進行方向をすべてランダムと仮定し、内部activityのみを10~100%まで変動させた際の女王のパトロール官僚まで掛かる時間(QTAtime)を求める。 すると、結果はactivityが高いほどQTAtimeは短い、すなわちコロニー全体が活発であった方が女王のパトロールは行いやすい。 しかし、実際のトゲオオハリアリのactivityは10%未満と非常に低い値をとる。 以上を踏まえ、ワーカーの内部activityは女王の行動を何かしら反映させてactivityを変化させていると考えられる。 今回は直接接触に基づいたactivity変化に注目し、モデルとしてワーカーとワーカーの接触、ワーカーと女王の接触によるワーカーの内部activityの増減のモデルというアルゴリズムを考え発表を行った。
II.質疑応答・その後のディスカッションを通じて
- ・内部activity変化について論じる場合、生物の世界では実際の昆虫でモデルを調べる実験が必要である
- ・ワーカーの卵巣の発達によりactivityが上昇するが、コロニー全体としての上昇である。よって、一匹のはぐれワーカーがactivityが上昇することは通常ではありえない
- ・本研究のシミュレーションの意図はactivity一定に保つことが条件であったためwalkモード→walkモードとなる確率とrestモード→walkモードとなる確率を等価と見なした。しかし、実際のアリの場合この二つの条件は等価とは考えにくい。例えばrestモード→walkモードの確率は変動させwalkモード→walkモードとなる確率は一定とした方が実際のアリの行動に近づくという考え方もできる。
- ・朝夕は外役のワーカーの出入りが激しいためactivityが上昇する。逆に昼夜はactivityが低い
III.ディスカッションを踏まえ
今回のモデル化した、ワーカー同士、ワーカーと女王間のactivity変化を、実際のトゲオオハリアリで実験を行う。具体的にはワーカーにマーキングを行いそれぞれのワーカーの毎秒の座標を取る。そして、walk/restそれぞれのモードで接触した後の内部activityの変化について調べる。
IV.その他社会性昆虫に関しての研究の内容
他にも辻研究室で行われた先行研究について聞いた内容をまとめる。
トゲオオハリアリの引越しの研究に関して
- ・トゲオオハリアリは10日ほどで引越しを行いやすい傾向にあり、コロニーサイズが大きいと引越しの際に分化する確率が高くなる。すなわち、コロニーサイズが増えてワーカーの中から女王が現れコロニーが分化するよりも、引越しの際に結果としてはぐれて分化する場合が多い
- ・トゲオオハリアリの引越しの引き金は餌不足、エネルギーコスト(子どもの数)、コロニー抗争(ケンカ)ではなく、予測不能な事態(温度・湿度の急激な変化)がきっかけで起こる
- ・他のコロニーが存在しない方向に引越しをする傾向にある
- ・引越しはタンデムリーダーとなる外役のワーカーが巣を見つけてきて、ワーカーを連れて行く
- ・卵が多いと近場の巣に引っ越すことが多い
社会性昆虫の繁栄戦略にして
- ・短期的コスト(1,2世代)と長期的コスト(個体群の絶滅)があり、単一生殖は有性生殖に比べ短期的には反映するが環境が変わると一気に絶滅してしまう。逆に有性生殖の場合、単一生殖の倍のコストがかかってしまうが環境変化に対応しやすい
- ・アリの寿命は産卵行動によって短くなるのではなく、動き回ることによる過労死が主である。つまり、女王になり産卵することは寿命を縮めることにはならず、逆に労働側に回ってしまい動き回ることで過労死ですぐに寿命が来てしまう
- ・ワーカーが自分のコピーを作った方が一見遺伝子を反映しやすそうな状況であっても、他のワーカーも同じ立場の場合、互いにけん制し合い労働に従事する選択を選ぶことがある