クモの糸と向き合ってみよう(第13回自然科学教室「山の教室」)
クモの巣をじっくり見たことはありますか?
クモの巣なんて、見ただけで気持ち悪いと思ったことはないですか?
実はクモはその種によってデザインが決まっているんです。形と、巣を張る向きと。
一度クモの巣をじっくり観察してみてください。
はじめに
クモの巣は、クモの家です。
私たちの家が例えば屋根と壁は雨風をふせぎ、柱はそれらを支えています。
同じように、クモの巣も構造一つ一つに意味があります。
以下にクモの巣の模式図をのせます。もちろん、クモの種類によって巣は三角だったり、丸かったり、水平だったり、垂直だったりしますけどね。
クモはこの7種類の糸を目的ごとに上手に使い分けています。7種の性質はそれぞれ組成の違い(アミノ酸の種類は同じだが、それぞれの割合が異なる)から生み出されます。クモの糸はクモのお腹から出されます。7種類の糸はそれぞれ違う部位でつくられ、お腹にある7つの穴からそれぞれ抽出されるのです。
目的
それでは、今回の実験の目的にはいりましょう。
今回やってみたかったことは、「クモの糸はどれくらい強いのか?」です。
昔からクモの糸は弾力性に富み強いといわれています。人工的にクモの糸ほど細くて強い糸を作るのは非常に高度な技術がいるのです。
普段、私たちはクモの糸を触ることはほとんどありません。あったとしても、クモの巣をつぶす時くらいで、クモの糸一本一本の強さを確かめる機会はほとんどありません。
そこで、今回はクモの糸一本がどれくらいの重さに耐えられるかを実験してみました。
まずは、クモにクモの糸を出してもらおう!
いきなり難問です。なんせ、「糸をだしてね」と口で言ったところで伝わりません。
まして、「横糸をだしてほしい」なんていうのはもっと難しい。
そこで、どの糸が出てくるかは運次第、ということで、とりあえずクモに糸を出させる工夫をしました。
それは、まず割り箸の上にクモをのせます。左手で割りばしを持ったまま、右手で左手をたたいたり、右端をたたいたりして、クモを割りばしから落そうとします。クモは落ちそうになったら落ちては大変と割りばしから糸を垂らします。
見えないけれど、赤枠の中に糸があるんです。落とされそうになっても、この糸のおかげでクモは落下しません。この命綱の糸を、私たちは頂くわけです。クモは落ちてしまったら(身長を考えたら、私たちが高いビルから落ちるようなものですから)、体を痛めてしまいますから、クモも必死です。
クモからは、糸さえださせれば後は巻き取るのみ!糸巻きにはハンガーを使いました。
何回巻いたかもう分かりません。これだけ集めたら、触っても硬いんですよ。
もちろん、こんなに巻き取らなくても実験はできます。だって、「クモの糸一本がどれくらいの重さにに耐えるのか!?」ですからね。一本あればいいんです。
さて、それでは実験開始です。
ハンガーで巻き取った蜘蛛の糸を、実験しやすい厚紙に移します。厚紙をハンガーにくぐらせて、クモの糸を厚紙に移動させます。その後、クモの糸一本に着目して、重りをつけます。
今回は、65 mg, 100 mg, 200 mgの3種類の重りを準備しました。どの重りを選んで使うからは、実験者の自由です。今回は、まず65 mgからスタート!
実験するのも、真剣です!触って切ってしまいそう!
まだ大丈夫!びっくり!!
結局、こんなに耐えました。
今度は、いっぱい糸が巻き取れたということで、
ハンガーのまま直接トライしてみました。
さて、大丈夫かな?
どんどん、重りをぶらさげていきます。
「お母さん!もっと高く持ってよ!!」 重りを増やしていくのは真剣勝負。神経を使います。
結局こんなに重りをぶら下げることができました。
一円玉(1g)を二枚、2gの重りぶら下げることにも成功しました。
実験を終えて
それでは、今回のクモの糸はどれくらい強かったのでしょうか?
糸の強さをはかるには、 実際には断面積を知る必要があります。
しかし、今回ではそのような実験はできませんから
単純に「耐えた重さ」だけで話をしたいと思います。
平均的なクモの糸は1本あたり直径が6ミクロン。牽引糸では3-4ミクロン。
クモは11月ごろ、もっとも体重が大きくなります。
今回実験で用いたジョロウグモのこの時期の平均体重は700mg程度。
最大では1000mgあります。
従って、2gの重さに耐えた糸は、体重の約2-3倍の重さに耐えることになります。
1650mgの重さに耐えた糸は、体重の約1.5-2.5倍の重さに耐えることになります。
最終的には、クモの糸の種類は電子顕微鏡で確認して同定するしかないのですが
もっとデータがあれば、耐える重さ別に何種類の糸が取れたか分かったかもしれません。
それはまたいつかの機会に。。。
奈良県立医科大学の大崎茂芳教授の研究ですが
実際のジョロウグモの牽引糸は、そのクモの体重の重さの2倍の強さがあるのだそうです。
クモの糸の中で最も丈夫とされている牽引糸が
クモの体重の2倍なので
今回実験した糸はクモの種類が違ったのでしょうか?
大崎教授の実験は、縦方向にひっぱっいて、本実験では横方向に引っ張ったので
作用がことなってしまったかもしれません。
あるいは、私たちが一本だと思った糸が実は二本だったのかもしれません。
なんにしろ、結論づけるにはもう少し実験が必要なようです。
今回実験で使ったクモの糸を、実態顕微鏡で見てみました。
肉眼では細い一本が、こんなに細い糸が絡まっていたとは
驚きの発見でした。
ところで、なぜ2倍かという話を最後にしたいと思います。
大崎教授の研究により、肉眼で一本にみえる牽引糸は、電子顕微鏡でみると2本が絡まりあっていることが分かりました。
このことより、クモの糸がクモの体重の二倍の重さにたえるのは、
おそらく、「リスクコントロール」ではないか、と推測されています。
たとえばトンネルの中で火事が起こったとしましょう。
迂回路がないトンネルは、その中にいる人は逃げ道がありません。
だから、最近のトンネルの多くは、普通のトンネルに並行して、もう一本走っているのだそうです。
これが「リスクコントロール」。
クモにとって、クモの牽引糸は命綱です。
万一、糸が切れてしまったら非常に危険です。
だから、一本切れても落下しないように、2本1セットになっているのではいか?と
考えられています。
素晴らしい生き残り戦略ですね!
一見気持ち悪い印象も多いクモですが
ちょっと見方を変えて、1人でも興味を持ってもらえたら嬉しいです。