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ヒトの運動制御におけるリズム生成のメカニズム

文責:田村 友里恵 (2009年7月 8日) カテゴリ:ヒトの視覚情報処理にもとづいた運動制御(7)第1回 natural science 学会(17)

ns学会発表~こうすればよかった~

7月4日(土)のナチュラルサイエンス学会の発表が色々な意味で終わったいま、
もっとこうすればよかった、こうしたらよかったのではないかと考えたことをまとめました。

一番、感じたのは、実験条件、実験結果など細かい部分まで話すのではなく、
自分が何を思って→どんな実験をした→そしたらこんな結果が出た→つまりここからこんなことがいえる→まとめ
というような、流れが分かるような発表をしたかった・・・ということ。

ヒトの運動制御における予測のメカニズム

1.背景と目的

tamu07041.GIF tamu07042.GIF 身の回りには様々な生物がいて、自分も人間という生物で、各々の生物は違うものであり、それぞれ特徴がある。特徴とは、体の構造でも、生態でも、行動などを指す。
しかし、これらの多様な生物は共通の祖をもつといわれている。
進化の過程で多様な生物がうまれてきたのであるとするならば、異なる生物同士を比べた時に、共通の部分もあると考えられる。
では、異なる生物同士で共通の部分と、その生物特有の部分とはどこなのだろうか。そこから、なぜその生物が生まれたのかを知る事ができたらと思う。

異なる生物同士をどのように比べるかを考えたときに、まずは全ての生物は環境の変化に適応しなければならないということを基にする。環境の変化に適応するためには自らの運動制御の方法が重要となる。
まずは運動制御の方法を知る事で、その生物の基本的な行動を調べる事から始めたい。
では、人間はどのような運動制御を行い、環境の変化に適応しているのだろうか。
まず、人間は五感を通して環境の変化を知り、それを基に行動する。ここで特に視覚に注目して考えてみる。

すると、例えば「ボールを取る」といった行動を考えたときに、
まず、置いてあるボールを取るときには、ボールと自分の手との距離を視覚で確かめて、適当な距離になったら「ボールを取る」ことをすれば良い。
tamu07043.GIF しかし、投げられたボールを取る場合はどうだろうか。自分がボールを取りたいと思っているところにボールがきてからとる準備をしたのでは、その間にもボールは動いているのだから取り損ねてしまうことになる。
tamu07044.GIF つまり、ボールが自分の取りたい位置よりも前にあるときに取る準備をしなければならない(もちろん、準備するのがはやすぎてもボールを取り損ねてしまう)。
これは、ボールの動きを予測していることになる。

これらのことから、人間の運動制御の方法には、少なくとも二種類、視覚情報に対して行動する「反応」と、視覚情報を基に行動する「予測」とがあると考えられる。
しかし、予測はいかにして可能となるのだろうか。

tamu07045.GIF 本研究の目的は、視覚情報を入力、運動制御を出力として、人間の予測のメカニズムを明らかにすることである。

2.実験方法

tamu07046.GIF 実験は全てパソコン上で行った。等速で円軌道上を動く物体を赤丸で表し、これを入力とした。その赤丸を、マウスと連動した動きをする青い丸で追いかけ、正確に合わせることを出力とした。等速で動く赤丸をターゲット、マウスと連動した動きをする青丸をトレーサとよぶ。

tamu07047.GIF 実験は二種類行った。
ひとつめは視覚刺激に対する運動制御の方法を調べるために、ターゲットを全軌道上で表示して、それをトレーサで正確に合わせる実験で、これを全軌道表示の実験とよぶ。
ふたつめは、予測しなければならない状況にするために、ターゲットを断続的に遮断した。ターゲットが見えなくなる場所は円軌道上の場所で固定し、全体の60%以上見えなくなるように設定した。ターゲットが見えないときにも、被験者にはターゲットとトレーサとの位置をできるだけ正確に合わせるというタスクを課した。
実験で、ターゲットの速さは0.1Hz, 0.3Hz, 0.5Hzの三種類に設定し、それぞれ30秒間を10回ずつ行った。

3.解析方法

解析方法は二種類。
tamu07049.GIF 1.一つ目は、ターゲットとトレーサの位置がどれだけ正確に合っていて、またその測定値のばらつきである精度がどれだけ良いのかを知るために、
トレーサの相対位置の分布図をガウス分布でフィッティングした。
ガウス分布の中心値を正確さ、標準偏差を精度とよぶ。

2.二つ目は、全軌道表示の実験と、Intermittent表示の実験とでトレーサの動かし方が違うのか、違うとすればどのように違うのかを調べるために、トレーサの相対速度の時系列をフーリエ変換した。

4.実験結果と考察

実験結果は、大きく分けて位置と速度の二種類ある。
まずはじめに位置の実験結果をみて、つぎに速度の実験結果をみることにする。

実験結果と考察(位置)

まず、正確さと精度についてみてみる。
tamu070411.GIF
精度は全軌道表示の実験、Intermittent表示の実験でともに、ターゲットが速くなるほど悪くなる。しかし、各速さで二つの実験の結果を比べると、全軌道表示の実験のほうがIntermittent表示の実験よりも精度は良かった。
視覚情報が少ないときよりも、多いときの方がより精度が良くなるのは当然のように思える。Intermittent表示の実験で、ターゲットが見えない間にターゲットとトレーサの位置が大きくずれる可能性は高いからである。
しかし、Intermittent表示の実験で精度が悪くなるといっても、誤差の範囲内といえる程度であり、全軌道表示の実験と変わらないといってよいと考えられる。

次に正確さをみてみる。すると、全軌道表示の実験、Intermittent表示の実験でともに、ターゲットが速くなるほど正確さは悪くなる傾向にあった。
全軌道表示の実験では、トレーサの位置はターゲットよりも後にあることが多く、Intermittent表示の実験ではトレーサの位置がターゲットよりも前にある事が多いことが分かった。
トレーサがターゲットよりも前にある事を先行、後にあることを後行とよぶ。
全軌道表示の実験では後行しており、Intermittent表示の実験では先行していることから、視覚情報に対する運動制御である反応の時には後行し、視覚情報を基にした運動制御である予測のときには先行すると考える。
いま、予測したときの運動制御の方法を先行制御、反応であるときの運動制御の方法をフィードバック制御(FB制御)とよぶことにする。
また、全軌道表示の実験とIntermittent表示の実験とで各速さを比べると、Intermittent表示の実験ではターゲットが60%以上見えていないにもかかわらず、全軌道表示の実験よりも正確さが良くなるという結果になった。
つまり、FB制御よりも、先行制御を行った方がより正確な運動制御を行うことができるといえる。
しかし、ターゲットが60%以上も見えていないのにより正確に合わせ、また、精度もほとんど変わらないように合わせるというのは、人間が予測できるということを分かっていても驚くべき事である。
ここで、予測できているならばターゲットが見えていないところでもターゲットとトレーサの位置を合わせていることになる。それを確かめるために、Intermittent表示の実験において、円軌道上のどの場所で何回ターゲットとトレーサの位置が合うのかを調べた。
tamu070415.GIF
ちなみに、全軌道表示の実験の場合には、平らなグラフ、つまり、全軌道上でどこかの場所に 偏ることなくターゲットとトレーサの位置があっていた。
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まず、ターゲットの速さが1番遅い0.1Hzの時には、、ターゲットが見えている領域でターゲットとトレーサの位置を合わせる事が多い。・・・つまり、FB制御が主であるといえ、先行制御をしているのかどうかは分からない。

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次に、ターゲットが2番目に速い(遅い)0.3Hzの時には、ほとんど平らなグラフであるといえるが、ターゲットが見えなくなる付近でより合わせていることが多い。
まず、ほとんど平らであるということは、FB制御、先行制御の両方、もしくは先行制御のみを行っていると考えられる。
そして、ターゲットが見えなくなるあたりでよりターゲットとトレーサの位置を合わせる回数が多くなる、これは、ターゲットが見えている領域でFB制御を行い、その運動制御の記憶が残ることでターゲットが見えなくなった後もFB制御の動かし方を行っていると考えられる。 つまり、ターゲットが見えている領域ではFB制御を行い、ターゲットが見えていない領域では先行制御を行っていると考えられる。

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最後にターゲットが一番速い0.5Hzでは、グラフは平らであった。
しかし、これではFB制御と先行制御の二つを行っているのか、先行制御のみをおこなっているのかが分からない。

ここまでで、FB制御と先行制御とがそれぞれ状況によって使い分けられているということが分かる。また、0.1Hz, 0.3Hzの結果から分かることは、FB制御のほうが、先行制御よりもターゲットとトレーサの位置を合わせる回数が多くなるということである。そう考えると、0.5Hzではグラフが平らなことから、ターゲットが見えている領域でも先行制御を行っているのだろうか!?

このことを、トレーサの相対位置の分布図をもとに調べてみた。
分布図の中心がマイナスであればFB制御、プラスであれば先行制御と考える。
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すると、0.1Hzではターゲットが見えている領域と見えていない領域でともにFB制御していることがわかる。しかし、ターゲットが見えていない領域では、先行制御が多少ではあるが発揮されていることがわかる。

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次に、0.3Hzでは、ターゲットが見えている領域ではFB制御を行い、ターゲットが見えていない領域では先行制御を行っている事がわかった。

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最後に、0.5Hzでは、ターゲットが見えている領域、見えていない領域でともに先行制御を行っている事がわかる。つまり、ターゲットが見えていても、視覚情報に対して反応しているのではないことになる。

4.実験結果と考察,位置のまとめ

まず、ここまでから、人間の運動制御の方法には
視覚情報に対して運動制御するFB制御と、
視覚情報を基に、予測したことに対して運動制御する先行制御とのふたつがあることが分かった。
そして、その二つの運動制御の方法は状況によって人間が無意識に使い分けている。
FB制御の利点としては、視覚情報がある場合には予測するよりもターゲットとトレーサの位置を回数として多く合わせられ、また、視覚情報に対して反応するだけなので、視覚情報が簡単に目で追える程度ならば、予測するよりも簡単に合わせることができる。
しかし、常に視覚情報を取り入れなければならない。これに対して予測ならば、視覚情報がほとんど必要にはならない。
つまり、入ってくる入力情報によって、より効率のよい合わせ方を判断していると考えられる。しかし、予測はいかにして可能となるのだろうか?

4.実験結果と考察(速度)

次に、全軌道表示の実験と、Intermittent表示の実験とで、トレーサの動かし方をみてみる。
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まず、ターゲットが一番遅い0.1Hzの結果をみると、全軌道表示の実験ではグラフはブロードな山の形をしているのに対して、Intermittent表示の実験では、グラフはシャープなピークがたっていることが分かる。

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次に、0.3Hz, 0.5Hzの結果を見てみると、全軌道表示の実験でも、Intermittent表示の実験でもシャープなピークがみられた。ピークの高さは、ターゲットが速くなるほど大きくなり、また、全軌道表示の実験よりもIntermittent表示の実験の方がピークは大きい。

この、ピークがターゲットの周波数の2倍の周波数(2f)に顕著に見られることから、2fのピークに注目する。
この2fのピークの意味は、ターゲットが一周する間に、
トレーサがターゲットよりも速い動き、遅い動き、速い動き、遅い動き(またはその逆) というような、速い、遅いという周期的な動きをしていることになる。ターゲットは等速であるにもかかわらず、である。
この、速い、遅いという動きを周期的に行っている事から、この2fのピークをリズムとよぶ。

Intermittent表示の実験で、全軌道表示の実験よりもリズムが大きくなることから、予測する、先行制御を行うためにはリズムが必要になると考えられる。
トレーサの動きに周期性を持たせる、リズムを生成することでターゲットの速度を相対的に知ることができると考えられる。そして、ターゲットの速度を予測する事ができたならば、ターゲットとトレーサの位置を、ターゲットが見えていない部分でもあわせることができるようになる。

結論

以上より、人間の運動制御である予測には、人間自身が時間間隔を生み出すリズム生成が必要であることになる。その予測である先行制御をすることによって人間は刻々と変化する環境と、自分の行動とを上手く一致させることができるといえる。



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