VisualC++ と OpenGL を利用した仮想物理実験室
【1-2-7】和分と積分
【1-2-6】差分と微分にて、位置 x(t) の解析解がわかっている場合、時刻 t[s] で微分することによって、速度 v(t)、さらに時刻 t[s] で微分するとことで、加速度 a(t) を計算できることがわかりました。 しかしながら、位置 x(t) の解析解を求めるためには、階差数列を計算し、最後に Δt → 0 の極限をとる必要があります。 また一般的に、階差数列を計算するのは手間がかかり、かつ見通しが悪い場合が多いです。 本節では、階差数列を計算する前に、Δt → 0 の極限をとる積分を導入します。
和分とは
はじめに、1次元の場合を考えます。 時刻 t=t_n の位置 x_n は、時刻 t=t_{n-1} の位置 x_{n-1}と速度 v_{n-1} を用いて、
と定義することができます。この関係式は、 時刻 t=t_{n-1}のときの位置と速度がわかっていれば、 時刻 t=t_nのときの位置 x_n が決まることを表しています。またさらに、左辺の x_{n-1} は、 x_{n-2} と v_{n-2} を用いて表すことができます。順番に代入していくと、
最後の1行は、数学の和の記号で表したものです。 つまり、時刻 t_n のときの位置 x_n は、初期値 x_0 と、時刻 t_{n-1} までの速度を順番に足して行ったものの和となります。 見方を変えるとこの和の部分は、底辺の長さが Δt 、高さが v_{n-k} の長方形の面積の和として理解することができます。
この関係をグラフで表すと次のようになります。
この図は等加速度直線運動の場合の時刻と速度の関係(v-tグラフ)です。時刻 t_n のときの位置 x_n は、v-t グラフの面積で表すことができます。これは和分と呼ばれます。 グラフを見ると、長方形と速度直線の間にすき間があります。これが誤差の原因です。 Δt が小さいほど、長方形と速度直線の間にすき間が小さくなり、Δt → 0 の極限で誤差がなくなります。 これは、【3.2日目】等加速度直線運動の解析解1:階差数列で階差数列の結果で、Δt → 0 の極限をとったことと一致します。
積分の定義
式(1.2.7-3)にて、Δt → 0 の極限をとります。
【3.3日目】等加速度直線運動の解析解2:差分と微分と同様、x_n → x(t) 、Δt → dt と書きます。さらに、和の記号「Σ」を積分の記号「∫」に置き換えます。 つまり積分とは、直感的には「無限個に切り刻んだ細長い短冊をすべて足し合わせる=面積を求める」という意味をもちます。
次に、式(1.2.7-4)にて定義した積分の計算方法について考えます。 式(1.2.7-4) の両辺を微分します。 左辺は、位置 x(t) の時刻 t の微分なので、速度 v(t) となります。 一方右辺は、v(t) を時刻 t で積分して、さらに時刻 t で微分しています。
v(t) の積分を V(t) と表すと、「V(t) を時刻 t で微分したものが v(t) となる」という意味になります。 逆に言うと、v(t) がわかっていれば、微分して v(t) となるように V(t) を決めることができます。 v(t) を積分したものを式(1.2.7-4)に代入することで、位置 x(t) を得ることができます。
様々なべき関数の微分の例
積分値 V(t) の最後に「+C」とあるのは、積分定数と呼ばれる項です。V(t) を時刻 t で微分するときに、t に依存しない項はなくなってしまうため、任意の値をとることができます。物理では、この積分定数を初期条件で決定します。速度 v(t) を積分して位置 x(t) を計算する場合、時刻 t=0[s] のときの位置 x(0) = x_0 と決めることができます。
加速度の積分
速度 v(t) を時刻 t で積分することで、位置 x(t) が得られることがわかりました。 この関係は、加速度 a(t) と速度 v(t) の関係でも成り立ちます。 時刻 t=t_n の位置 v_n は、時刻 t=t_{n-1} の位置 v_{n-1}と速度 a_{n-1} を用いて、
と定義することができます。この関係式は、 時刻 t=t_{n-1}のときの速度と位置がわかっていれば、 時刻 t=t_nのときの位置 v_n が決まることを表しています。 速度と位置の関係性と同様に、左辺の v_{n-1} は、x_{n-2} と v_{n-2} を用いて順番に代入していくと、
時刻 t_n のときの速度 v_n は、初期値 v_0 と、時刻 t_{n-1} までの速度を順番に足して行ったものの和となります。 見方を変えるとこの和の部分は、底辺の長さが Δt 、高さが a_{n-k} の長方形の面積の和として理解することができます。
この関係をグラフで表すと次のようになります。
この図は等加速度直線運動の場合の時刻と加速度の関係(a-tグラフ)です。時刻 t_n のときの位置 v_n は、a-t グラフの面積で表すことができます。グラフを見ると、等加速度直線運動の場合、加速度は時刻に依らず一定なので、Δt の大きさに依らず誤差はないということです。 等加速度直線運動の場合には、単なる長方形なので積分計算をする必要がありません。 加速度 a[m/s^2] が時刻 t に依る一般的な場合では、速度と位置の関係性と同様に議論を進めることができます。
速度と位置の関係性と同様、加速度と速度の関係性も同じです。 次節では、導出した微分・積分を利用して等加速度直線運動の解析解を導出します。
VisualC++ と OpenGL を利用した仮想物理実験室
第0章 仮想物理実験室の構築
- 【0-1】OpenGL と Visual C++ 2008 Express Edition の準備
- 【0-2】仮想物理実験室の構築 ・(0-2-1)ver1.0:基本形 ・(0-2-1)ver1.1:基本形+ばねの描画 ・(0-2-2)ver1.2:基本形+ばねの描画
- 【0-3】グラフ作成ソフト gnuplot のインストールと使い方
- 【A-1】参考文献
・(A-1-1)OpenGL について
・(A-1-2)VisualC++ について
・(A-1-3)物理シミュレーション
・(A-1-4)数値計算
第1章 様々な運動
- 【1-1】等速度直線運動
- ・(1-1-1)物理量について
- ・(1-1-2)等速度直線運動のアルゴリズムの導出
- ・(1-1-3)等速度直線運動のシミュレーション
- ・(1-1-4)等速度直線運動のグラフ化
- ・(1-1-5)等差数列を用いた等速度直線運動の解析解の導出
- ・(1-1-6)等速度直線運動のシミュレーション結果と解析解との比較
- 【1-2】等加速度直線運動
- ・(1-2-1)等加速度直線運動のアルゴリズムの導出
- ・(1-2-2)等加速度直線運動のシミュレーション
- ・(1-2-3)等加速度直線運動のグラフ化
- ・(1-2-4)階差数列を用いた等加速度直線運動の解析解の導出
- ・(1-2-5)等加速度直線運動のシミュレーション結果と解析解との比較
- ・(1-2-6)差分と微分
- ・(1-2-7)和分と積分
- ・(1-2-8)微分・積分を利用した等加速度直線運動の解析解の導出
- 【1-3】等加加速度直線運動
- ・(1-3-1)等加加速度直線運動のアルゴリズムの導出
- ・(1-3-2)等加加速度直線運動のシミュレーション
- ・(1-3-3)等加加速度直線運動のグラフ化
- ・(1-3-4)等加加速度直線運動の解析解の導出
- ・(1-3-5)等速度直線運動のシミュレーション結果と解析解との比較
- 【1-4】等速度円運動
- ・(1-4-1)等速度円運動のアルゴリズムの導出
- ・(1-4-2)等速度円運動のシミュレーション
- ・(1-4-3)等速度円運動のグラフ化
- ・(1-4-4)等速度円運動の解析解の導出
- ・(1-4-5)等速度円運動のシミュレーション結果と解析解との比較
- 【1-5】等加速度円運動
- ・(1-5-1)等加速度円運動のアルゴリズムの導出
- ・(1-5-2)等加速度円運動のシミュレーション
- ・(1-5-3)等加速度円運動のグラフ化
- ・(1-5-4)等加速度円運動の解析解の導出
- ・(1-5-5)等加速度円運動のシミュレーション結果と解析解との比較
第2章 ニュートンの運動方程式
- 【2-1】重力による運動:自由落下運動
- ・(2-1-1)加速度・力・質量の関係:ニュートンの運動方程式
- ・(2-1-2)重力による運動のアルゴリズムの導出
- ・(2-1-3)重力による自由落下運動のシミュレーション
- ・(2-1-4)重力による自由落下運動のグラフ化
- ・(2-1-5)重力による自由落下運動の解析解の導出
- ・(2-1-6)重力による自由落下運動のシミュレーション結果と解析解との比較
- 【2-2】重力による運動:鉛直投射運動
- ・(2-2-1)重力による鉛直投射運動のシミュレーション
- ・(2-2-2)重力による鉛直投射運動のグラフ化
- ・(2-2-3)重力による鉛直投射運動の解析解
- ・(2-2-4)重力による鉛直投射運動のシミュレーション結果と解析解との比較
- 【2-3】重力による運動:水平投射運動
- ・(2-3-1)重力による水平投射運動のシミュレーション
- ・(2-3-2)重力による水平投射運動のグラフ化
- ・(2-3-3)重力による水平投射運動の解析解
- ・(2-3-4)重力による水平投射運動のシミュレーション結果と解析解との比較
- 【2-4】重力による運動:斜方投射運動
- ・(2-4-1)重力による斜方投射運動のシミュレーション
- ・(2-4-2)重力による斜方投射運動のグラフ化
- ・(2-4-2)重力による斜方投射運動の解析解
- ・(2-4-3)重力による斜方投射運動のシミュレーション結果と解析解との比較
- 【2-5】重力による運動:斜方投射運動2
- ・(2-5-1)重力による斜方投射運動における初速度の分解
- ・(2-5-2)重力による斜方投射運動2のシミュレーション
- ・(2-5-3)重力による斜方投射運動2のグラフ化
- ・(2-5-4)重力による斜方投射運動2の投射角度と飛距離の関係
- ・(2-5-5)重力による斜方投射運動2の解析解
- ・(2-5-6)重力による斜方投射運動2のシミュレーション結果と解析解との比較
- 【2-6】重力+空気抵抗力による運動:自由落下運動
- ・(2-6-1)重力+空気抵抗力による運動の運動方程式とアルゴリズム
- ・(2-6-2)重力+空気抵抗力による自由落下運動のシミュレーション
- ・(2-6-3)重力+空気抵抗力による自由落下運動の解析解の導出
- ・(2-6-4)重力+空気抵抗力による自由落下運動のシミュレーション結果と解析解との比較
- 【2-7】重力+空気抵抗力による運動:斜方投射運動
- ・(2-7-1)重力+空気抵抗力による斜方投射運動のシミュレーション
- ・(2-7-2)重力+空気抵抗力による斜方投射運動の解析解の導出
- ・(2-7-3)重力+空気抵抗力による斜方投射運動のシミュレーション結果と解析解との比較
- 【2-8】ばね弾性力による運動:単振動運動(1次元)
- ・(2-8-1)ばね弾性力による運動の運動方程式(1次元)とアルゴリズム
- ・(2-8-2)ばね弾性力による単振動運動(1次元)のシミュレーション
- ・(2-8-3)ばね弾性力による単振動運動(1次元)の解析解の導出
- ・(2-8-4)ばね弾性力による単振動運動(1次元)のシミュレーション結果と解析解との比較
- 【2-9】ばね弾性力による運動:単振動運動(2次元)
- ・(2-9-1)ばね弾性力による運動の運動方程式と(2次元)アルゴリズム
- ・(2-9-2)ばね弾性力による単振動運動(2次元)のシミュレーション
- ・(2-9-3)ばね弾性力による単振動運動(2次元)の解析解:微分・積分を利用した解析解の導出
- ・(2-9-4)ばね弾性力による単振動運動(2次元)のシミュレーション結果と解析解との比較
- 【2-10】ばね弾性力+重力がある場合の運動:単振動運動(3次元)
- ・(2-10-1)ばね弾性力+重力による運動の運動方程式(3次元)とアルゴリズム
- ・(2-10-2)ばね弾性力+重力による単振動運動(3次元)のシミュレーション
- ・(2-10-3)ばね弾性力+重力による単振動運動(3次元)の解析解の導出
- ・(2-10-4)ばね弾性力+重力による単振動運動(3次元)のシミュレーション結果と解析解との比較
- 【2-11】ばね弾性力+重力がある場合の運動:多重連結ばねの運動
- ・(2-11-1)ばね弾性力の一般化
- ・(2-11-2)ばね弾性力+重力による多重連結ばねの運動の運動方程式
- ・(2-11-3)ばね弾性力+重力による多重連結ばねの運動のアルゴリズムの導出
- ・(2-11-4)ばね弾性力+重力による多重連結ばねの運動のシミュレーション
- 【2-12】ばね弾性力+遠心力がある場合の運動:円運動
- ・(2-12-1)遠心力の導出
- ・(2-12-2)遠心力+ばね弾性力による運動の運動方程式
- ・(2-12-3)遠心力+ばね弾性力による運動のアルゴリズムの導出
- ・(2-12-4)遠心力+ばね弾性力による運動のシミュレーション
- 【2-13】張力+重力がある場合の運動:単振子運動.html
- ・(2-13-1)張力の導出
- ・(2-13-2)張力+重力による多重連結ばねの運動の運動方程式
- ・(2-13-3)張力による多重連結ばねの運動のアルゴリズムの導出
- ・(2-13-4)張力による多重連結ばねの運動のシミュレーション
- 【2-14】万有引力による運動1:楕円運動
- ・(2-14-1)万有引力の導出
- ・(2-14-2)万有引力による運動の運動方程式
- ・(2-14-3)万有引力による運動のアルゴリズムの導出
- ・(2-14-4)初速度と軌道の関係
- ・(2-14-5)万有引力による運動のシミュレーション
- 【2-15】万有引力による運動2:円運動
- ・(2-15-1)万有引力による運動が円運動になるための条件
- ・(2-15-2)初速度の与え方
- ・(2-15-3)万有引力による円運動のシミュレーション
- 【2-16】万有引力による運動3:3体運動
- ・(2-16-1)3体運動とは
- ・(2-16-2)万有引力による3体運動の運動方程式
- ・(2-16-3)万有引力による3体運動のアルゴリズムの導出
- ・(2-16-3)万有引力による3体運動のシミュレーション
第3章 剛体の運動(エネルギー保存則と運動量保存則)
- 【3-1】床と球の衝突
- 【3-2】壁と球の衝突
- 【3-3】円柱と球の衝突(1次元)
- 【3-4】円柱と球の衝突(2次元 x-y平面)
- 【3-4-2】円柱と球の衝突(2次元 x-z平面)
- 【3-5】球と球の衝突(1次元)
- 【3-6】球と球の衝突(2次元)
- 【3-7】球と球の衝突(3次元)
付録
- 【A-1】参考文献
・(A-1-1)OpenGL について
・(A-1-2)VisualC++ について
・(A-1-3)物理シミュレーション
・(A-1-4)数値計算
未分類
力学
- ・ 2体問題のシミュレーション(C言語+ルンゲクッタ法)
- ・ ラグランジュ未定乗数法を用いた2重振子のシミュレーション
- ・ ラグランジュ未定乗数法を用いた球面振子のシミュレーション
- ・ ラグランジュ運動方程式2:極座標を用いた球面振子
- ・ ラグランジュ運動方程式1:極座標を用いた単振子
量子力学
- ・ 1次元量子力学の調和振動子における単一エネルギーの時間発展
- ・ 1次元量子力学の調和振動子における任意の初期状態に対する時間発展
- ・ 1次元量子力学の調和振動子におけるコヒーレント状態の空間分布
- ・ 1次元量子力学の調和振動子におけるコヒーレント状態の時間発展
- ・ 1次元量子力学の調和振動子における n励起状態の運動量表示
- ・ 1次元量子力学の調和振動子における任意の初期運動量分布に対する時間発展
- ・ 1次元量子力学の調和振動子における任意の初期運動量分布+任意の中心座標に対する時間発展
- ・ 1次元量子力学の調和振動子における任意の初期空間分布+任意の中心運動量に対する時間発展(最も簡単な方法)
- ・ 無限に深い2次元井戸型ポテンシャル
- ・ 無限に深い2次元井戸型ポテンシャル2
- ・ 無限に深い2次元井戸型ポテンシャル3
- ・ 無限に深い2次元井戸型ポテンシャル
- ・ 2次元自由粒子
- ・ 無限に深い井戸型ポテンシャルの時間発展2
- ・ シュレディンガー方程式に従う粒子の時間発展2:無限に深い井戸型ポテンシャルの時間発展
- ・ シュレディンガー方程式に従う粒子の時間発展:自由粒子